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体験的に学んだ〈幼年期の子どもに対するスポーツ指導法〉

   現在、私が勤務している「生涯スポーツ社会の実現を図ることを目的とした事業を行う公益財団法人」では、年間を通して様々なスポーツ教室を開設したり、各種のスポーツ活動を普及したりする事業を開催している。その中で、幼児から高齢者までの多世代の県民が参加する「ニュースポーツ交流会」という公益事業がある。今年度は「ラケットテニス」「スポーツ吹矢」「キンボール」という3種目のニュースポーツを、参加者に1種目約35分間のローテーション方式で体験してもらった。多くの家族連れは半日、誰でもが手軽にできるニュースポーツの楽しさを味わってくれたと思う。

 

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   さて、当日の私の役割の一つは、「ラケットテニス」体験の指導であった。その中で、体験的に学んだ〈幼年期の子どもに対するスポーツ指導法〉の具体例について、以下にまとめてみたい。なお、具体的な指導に際しては、地元の国立大学の教育学部で長年、スポーツの実技指導に携わって来られ、退官後も一般市民が参加するテニスやバドミントンのサークルで指導者として活動されている鵜川是先生の論文「スポーツがうまくできない者の運動感覚世界に入り込む個に応じた指導を考える」を参考にさせてもらった。特に次の箇所は大いに参考になった。

 

 「…教師は(運動習得能力の)低い者の生の動きを観て、彼の今までの運動経験などを含む能力状態、彼がその技に持っているイメージ、彼の性格などを感じ取り、今の仕方を繰り返し練習してもできるようになれないことや修正する箇所などを見極めて、課題を変更する、『ここをこんな感じでこうしたら』と指示や示範をする必要がある。(動きの大きさや軌跡など目に見える)動きの形について指示を出すには、教師がある程度の運動知識を持っておればできることかも知れない。しかし(力の入れ方、動きの速さ、始動のタイミングなど感じ取る)力動感については、教師が低い者の生の動きを観ながら教師の身体内に彼と同じ段階の課題を彼の身になってしている積もりでの力動感を呼び起こす『運動共感』をし、教師の力動感と彼の力動感とを比べて適切な指示を出す必要がある。」

※ ( )内の言葉は、読み手が分かりやすいように私が補足した内容である。

 

  「ラケットテニス」体験は、体育館の半分に4コートを設置し、それぞれ家族連れを中心に6名ほどの参加者を担当する指導態勢で行われた。私が担当したグループの中には、どの組にも4・5歳~小学1・2年生の〈幼年期の子ども〉がいた。

 

   最初のグループの時、まず手による球出しでフォアハンドの練習をした際に、大人や小学校中学年以上の子どもは何とか球に当てることができていたが、幼年期の女児はワンバウンドした球にほとんど当てることができなかった。そこで、私はその女児に「身体を横に向け脚を肩幅より少し広めに開いて、ラケットを下から上に振り上げるようにしよう」とアドバイスをした。そして、女児が振り上げるラケットの軌道に合うように球出しをしてみた。すると、何度か当たるようになった。しかし、安定したフォームになかなかならない。それは、女児の体力や運動能力等とラケットの重さや大きさが合っていないからだと思った。私は女児とその母親以外の参加者にコート内でラリー練習をするように指示して、女児のマンツーマン指導をすることにした。その結果、最初に比べてラケットに球が当たって回数が増えて来て、女児の表情にも笑顔が増えるようになった。また、母親の激励や称賛等でさらに女児の意欲は高まったように思った。

 

   2番目のグループには、幼年期の男児が二人いた。二人とも先の女児に比べると体力的には優っていたが、バウンドした球をタイミングよく打つことが難しかった。今度は、家族内で個別練習する時間を取ってみた。しかし、家族では理想形に近いフォームで打たそうとしてしまい、練習成果が出にくく男児たちは活動意欲が低下してきた。そこで、私は大人たちにラリー練習を指示し、二人の男児の個別指導に当たった。男児たちのフォームを観察すると、力任せにラケットを振ろうとして初期動作が遅れるとか軌道が安定しないとかという課題が見られた。私は、「初めからラケットを後ろ下に構え、球がバウンドして落ちてきたところを下から掬い上げるように振るようにしよう」とアドバイスした。すると、球に当たる回数が増えてきた。男児たちはたとえ球に当たらなくても身体を動かすことが楽しいらしく、何度も挑戦していた。

 

   最後のグループには、小学校中・高学年の男児三人と幼年期の男児一人がいた。初めの手による球出しで幼年期の男児以外はスムーズにラケットを振り、球をジャストミートしていた。それを見て、その男児は泣きそうだった。そこで私は早速、その男児以外はコート内でラリー練習するよう指示し、それまでの経験を踏まえて幼年期の男児の個別指導をすることにした。すると見る見る内にタイミングよく球を打つことができるようになった。最後の方ではラリーが少しできるほどに上達し、大満足の表情になっていた。

 

 〈幼年期の子ども〉に対しては、特に指導者が『運動共感』をもって幼年期特有の心身の発達特性に合った細やかな指導をすることが肝要だと改めて認識した次第である。