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「人生・生き方」「教育・子育て」「健康・スポーツ」などについて考え、雑学的な知識を参考にしながらエッセイ風に綴るblogです。

スポーツは健康にいいもの?何のためにスポーツをするの?

     私が体育科教育の実践研究に精力的に取り組んでいた若い頃、書名の付け方とその内容に興味をもち、面白半分で購入した本がある。…それは、ユーモア・スポーツ短編小説集『体に悪いことしていますか』(清水義範著)である。

 

    著者の清水氏は、昭和22年生まれで、愛知教育大学教育学部国語学科を卒業後、小説家・半村良(はんむらりょう)(このペンネームは当時テレビで活躍していた外国人タレントのイーデス・ハンソンに由来するらしい…)に師事し、昭和52年頃には「注目すべきパロディスト」と評価されるSF作家になった人である。昭和63年には『国語入試問題必勝法』で第9回吉川英治文学新人賞を受賞し、その後は直木賞候補にも再三なったが残念ながら全て落選の憂き目にあっている。今から20年ほど前、その直木賞候補作になった『虚構市立不条理中学校』を読んで以来、清水氏は私にとってちょっと気になる作家の一人になっていた。だから、当時、ある書店の書棚に本書が並んでいるのを発見して、すぐに購入したのである。

 

 さて、今回本当に久し振りに読み返してみると、「誰が最初にスポーツしたのか」「逆あがりシンドローム」「どすこいコメンテーター」「空きカンと青空」「弱虫泣きべそスポーツマン」「断然、野球です」「ピンポン接待術」等という題名の小説群は、アイロニカルなユーモアの中にも著者の本音の運動・スポーツ観が反映されていて改めて面白いと感じる。特に書名にもなっている「体に悪いことしていますか」は、抱腹絶倒の話でインパクトのある短編小説である。

 

    まずは、話の概要を紹介しよう。あるテレビ局の『ビバ・スポーツ天国』という番組にゲストとして呼ばれた中峰大学医学部教授でスポーツ医学の権威である島岡一昭は、番組スタッフの不真面目な対応に堪忍袋の緒が切れてしまい、番組制作の趣旨である「スポーツは人間の健康にいい」と正反対のコメントを本番でぶち上げてしまう。そして、ついに番組のメイン・キャスターである元バスケットボール選手で、甘いマスクと度外れた背の高さで女性に人気のある河北恒一に対して、いろいろと理屈を付けて「バスケットボールをやるとバカになっちゃうんですよ」と言い放ち、番組をめちゃくちゃにしてしまうという展開。まあ、日頃スポーツをやらない著者がスポーツを皮肉っぽくとらえ、裏から見ておかしさを発見するかのような気分で書いた短編小説であろう。読者としては単に面白おかしく笑い飛ばせばよいのであるが、当時の私は真面目(?)にも自分のスポーツ観や健康観を相対化する視座として受け止めた。                                                                   

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    学校教育において運動・スポーツや健康等を教材として指導する「(保健)体育科」という教科が存在するのは、運動・スポーツは体力向上に効果があり、血行をよくしストレス解消にもなるなど健康の保持・増進によいとか、成長期にある子どもたちの心身の健全な発育・発達を促進するなど、様々な教育的価値が社会的に認知されているからである。しかし、運動やスポーツは自分の健康状態に合わせて、適度にやらなければ健康を損なうことがある。実際に各種スポーツ選手のほとんどは、何らかの健康障害を起こしているのが現実である。むしろ社会全般を見渡せば、スポーツをしないで日常生活を送る上で必要な活動や運動を自然に行っている人の方が、健康的に生きている。では、運動愛好者やスポーツ選手は何のために運動やスポーツをするのだろうか?

 

 運動やスポーツの根源は元々「プレイ=遊び」なので、「単に面白いから」するのだと私は思う。そして、その遊びの面白さや楽しさを味わいたいから、真剣に取り組むのである。その結果、自然に運動能力のレディネス水準が高まるので、より上のレベルを目指し、より深い面白さや楽しさを味わおうとしてしまう。ついつい健康障害を起こしてまでも…。そこが、理性的・合理的なだけでは生きていけない愚かな動物である「人間」の愛すべきところなのではなかろうか。