ようこそ!「もしもし雑学通信社」へ

「人生・生き方」「教育・子育て」「健康・スポーツ」などについて考え、雑学的な知識を参考にしながらエッセイ風に綴るblogです。

新しい時代にふさわしいコーチングについて

   近年、各種スポーツ界において指導者によるパワハラ体罰、暴行等の不祥事が頻発している。時代が変わったと言えば、そういう面もあるかもしれないが、一人一人のスポーツ選手やアスリートの人権は本来、尊重されるべき事柄である。にもかかわらず、相も変わらず昔ながらの指導者と選手の上下関係は、今も歴然と存在しているかのようである。

 

 そのような中、私は市立の中央図書館で『私たちは未来から「スポーツ」を託されている~新しい時代にふさわしいコーチング~』(文部科学省編)という本を見つけた。本書は、スポーツの指導において暴力を行使する事案(特に柔道界)が明らかになったことを受け、平成25年4月に文部科学副大臣の下に設置された「スポーツ指導者の資質能力向上のための有識者会議(タスクフォース)」において取りまとめた報告書と、会議で発表された内容をまとめたものである。皆さんの中には既に読んでいる方もいると思うが、私は今回初めて全文に目を通した。納得することばかりだったので、その概要を整理しておきたい。

 

f:id:moshimoshix:20181216130730j:plain

 

 まず、本書において「コーチング」とは「競技者やチームを育成し、目的達成のために最大限行うサポート活動全体」と規定している。また、全ての競技者やチームに対して指導を行う人材を「コーチ」と呼ぶと述べている。つまり、ナショナルチームの指導者も、地域のスポーツ少年団の指導者も、学校の運動部活動の指導者も、私たちのような一般市民向けのスポーツ教室の指導員も、全て「コーチ」なのである。したがって、本書で提起している「新しい時代にふさわしいコーチング」の主旨について、私たちはしっかりと認識しておくことが必要なのである。

 

 では、「新しい時代にふさわしいコーチング」とはどのようなものなのだろうか。

 

 本書では「新しい時代にふさわしいコーチング」とは、「競技者やスポーツそのものの未来に責任を負う社会的な活動であると常に意識して行われるもの」と述べている。そして、いくつかの具体的な例を挙げているが、ここでは最近、文部科学省から在り方のガイドラインが示された「学校の運動部活動」のコーチと「全て」のコーチの在り方についての記述を簡単に紹介しよう。

 

 「運動部活動」のコーチは、「その活動が学校教育の一環として行われるものであることを認識した上で、しっかりとした管理運営体制を学校全体で構築し、生徒の多様なキャリアや志向等を念頭に教育課程との関係を工夫したり、目先の競技成績にとらわれず、生徒の長期的なスポーツキャリア全体を視野に入れたコーチングを行ったりすること」が大切である。

 

 また、「全て」のコーチは、「競技者に対し、強制ではなく人格を尊重し、主体的な判断や行動を促すコーチングを行うこと、練習の量だけでなく質を重視すること、コーチの持つ影響力を自覚し、社会の規範を遵守すること等、社会におけるスポーツそのものの価値や健全性を高めることを常に忘れずに行動すること」が大切である。当たり前と言えば当たり前なことばかりである。しかし、今までの実態はそうではなかった。だからこそ、本書で改めて「新しい時代にふさわしいコーチング」と名付け、その具体像を示したのである。

 

 最後に、本書で「今後、新しい時代にふさわしいコーチング及びコーチを確立するための具体的な方策」が提言されているが、その中でも私が特に重要だと思った内容に触れたい。

 

 その一つは、「最適なコーチングを行うために必要な知識・技能の明確化とその活用を図るための方策」の知識・技能の内容において、「哲学や倫理、内発的動機づけ、コミュニケーション能力、リスクマネージメント、長期的なスポーツキャリアを視野に入れたコーチングの在り方等、競技横断的な知識・技能の位置づけを明確にすること」と示されていること。

 

 もう一つは、「子供の発達段階に応じ長期的な視野をもったコーチングの実現方策」の中で、「スポーツ少年団及び総合型地域スポーツクラブ等の地域における子供へのコーチングを行う場においても、運営方針や指導理念、指導方法等を明らかにするとともに、運営体制を見直したり、複数の人材でのコーチング体制を構築する等、体制を充実すること」と示されていること。

 

 私たち運動やスポーツを指導する立場にいる者は、それぞれの立場でこれらの課題解決に向けて鋭意努力すべきであろう。