ようこそ!「もしもし雑学通信社」へ

「人生・生き方」「教育・子育て」「健康・スポーツ」などについて考え、雑学的な知識を参考にしながらエッセイ風に綴るblogです。

「泳げない子を泳げるようにする指導」の在り方について

    前回の記事で、ある方の「水泳教室」の実践記録に基づいて、障がいのある子や運動の苦手な子に対する指導法の工夫例を取り上げた。そこで今回は、今から3年半ほど前にある授業研究会において公開された小学校体育科の水泳学習の授業展開や、助言者として参観した私の所感について、当時の記録を基にして書いてみようと思う。

 

 その時の体育科(水泳系運動領域)授業研究会は、県内のある地区の小学校体育連盟の組織的な実践研究活動の一環として開催された。その地区の小体連は、当年の10月末に開催される「中・四国小学校体育研究大会」の午後の分科会において水泳系運動領域で研究発表する予定になっていた。そのために、4年前から継続研究を進めており、その年度は最終年度であった。平成24・25年度は研究領域を低学年の「水遊び」にし、昨年度と当年度は中学年の「浮く・泳ぐ運動」にして実践的な授業研究を積極的に進めていた。その中で、低学年は水に慣れる遊びや浮く・もぐる遊びを通して、基礎的な運動感覚や身に付けさせたい動きを確実に定着させる実践研究を深めてきた。また、中学年は浮く運動や泳ぐ運動を通して、いろいろな浮き方やけ伸び・初歩的な泳ぎを習得させる実践研究を進めてきていた。しかし、昨年度までの実践研究においては、水の中で進む動きとして「バタ足」(キック)を中核に位置付けて指導していた。当時、私はここに疑問をもった。

 

 果たして「泳げない子を泳げるようにする指導」は、「バタ足」(キック)を中核にした指導の在り方でいいのであろうか。泳げない子は、「なぜ泳げないのか」。この原因を根本的に考察する必要があるのではないか。私はもっと教材解釈を深めて、単元計画を構想し直す必要があるのではないかと率直に思った。

 

 ところが、事前に送られてきたその時の体育科学習指導案を見ると、この点に関する教材解釈が大きく転換していた。つまり、3年生の「浮く・泳ぐ運動」の単元展開において、水の中で進む動きとして「手の動き」と「呼吸の仕方」を中核にしていたのである。そして、本時(全11時間扱いの中の7時間目)は学習課題を「いろいろな呼吸の仕方を考え、楽に進んでみよう」と設定し、昨年度の指導の在り方とは違う実践研究をしていたのである。

  

f:id:moshimoshix:20190207083527j:plain

 

 授業展開を簡単に素描してみよう。準備運動とシャワーを終えた3年生は、まずスイプカドリルと称する基本的な動きを行った。具体的には、け伸びや連続だるま浮き、連続ばんざい浮きなどで、脱力することや呼吸の仕方等の運動感覚を養っていた。次に、学習課題を確認した後、一人一人がいろいろな呼吸の仕方を自由試行した。全員、腰に補助具(ヘルパー)を付け、自分で選んだ四つの「手の動き」に合わせた「呼吸の仕方」を試していた。その後、何人かの児童が紹介し合い、今度は「四つ試した中で二つ選んで、楽に進める動きを追求する段階」に移った。ここでは、バディの友達に泳ぐ様子を見てもらい、気付いたことをアドバイスしてもらっていた。そして、楽な呼吸の仕方を見つけた児童に発表させ、その後にバディの友達のよい動きをまねして試させた。最後に、本時の学習の感想を数人の児童に発表させて、授業を終えた。

 

 評価規準を明確化した目標の設定・学習課題の提示の仕方・発問や指示の内容・発表の隊形等、様々な点で課題はあったが、私は本単元の教材解釈や指導の在り方には基本的に賛成であった。つまり、泳げない原因を「呼吸が続けられないこと」に見出し、「手」と「呼吸」という二つの動きの連携が水泳では基本であるという認識の下に、本単元を構想していることに共感できたのである。「手」と「呼吸」の連携ができると、「バタ足」(キック)は自然に生まれてくる。しかし、それができるようになるまでは下半身が沈まないために、補助具(ヘルパー)を腰に付けさせる。また、「手」と「呼吸」の連携という動きを身に付けるための基礎・基本の動きを「連続だるま浮き」ととらえる。このような考え方は、まだまだ小学校現場では一般的ではないのかもしれないが、私は「泳げない子を泳げるようにする指導」の在り方としてのスタンダードになってほしいとその時に強く思ったという次第である。