ようこそ!「もしもし雑学通信社」へ

「人生・生き方」「教育・子育て」「健康・スポーツ」などについて考え、雑学的な知識を参考にしながらエッセイ風に綴るblogです。

「生涯学習」の考え方から発展させた新しい時代の学び方について(2)

    前回の記事では、「ワークアズライフ」の生き方や「学び続けること=仕事をすること=生きること」の三位一体論の考え方を一人一人の国民に保障するためには、これからの学校教育の在り方はどうあればよいのかという問いを発したところで締めくくってしまった。そこで今回は、その回答内容を『0才から100才まで学び続けなくてはならない時代を生きる学ぶ人と育てる人のための教科書』(落合陽一著)の中の重要な主張を参考にしながらまとめてみよう。

 

 著者の落合氏は、これからの学校教育の在り方を示すものとして今の教育界において重要視されている「STEAM教育」を取り上げている。そして、その中でもこれまでの学校教育において不十分であった、主体的な課題解決に取り組みながら学び続けるために必要なツールとなる「4つの要素」の学びの手法について、具体的な実践例を示しながら解説している。

 

   まず、「STEAM教育」について。「STEAM」とは、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)、そしてArt(芸術)の頭文字を合わせたもの。そして、「STEAM教育」は、AIやロボットとともにシステムに組み込まれる「使われる側」の人間になるのではなく、これからの時代に必要とされる教養を身に付け、創造性を生かしながら、新たなシステムを創造し、AIや人的リソースを「使う側」として活躍するための教育であると主張している。もちろん全ての子どもが「使う側」になれるわけはなく、むしろ多くの子どもが「使われる側」になるのが現実である。とすれば、「使われる側」になることも想定した教育が必要になると私は考えるが、それはまた別の問題になるのでいつか論ずることにして、今回は著者の主張に沿って論を進めよう。

 

f:id:moshimoshix:20190215082548j:plain

 

    次に、「4つの要素」について。著者が、今までの学校教育で抜け落としがちな「4つの要素」として挙げているは、次のとおりである。

・ 言語(ロジックなど)…言語をロジカルに用いる能力

・ 物理(物の理という意味で)…物理的なものの見方や考え方

・ 数学(統計的分析やプログラミング)…数学を用いた統計的判断や推定力

・ アート(審美眼・文脈・ものづくり)…アートやデザインの鑑賞能力審美眼

この4つの要素がなぜ学校教育に不足しているかというと、「どう学ぶか」という学びの手法について、これまで議論されてこなかったからだと著者は言う。このような議論を背景にしてか、新学習指導要領においても「どう学ぶか」という学び方に踏み込んだ内容が示されたが、この4つの要素は〈教え-教えられる〉という教育関係を基本にした「何を学ぶか」という教科内容の外側で、それぞれの領域を行ったり来たりしながら、主体的に学び問い続けるためのキー・コンセプトなのである。

 

 では、4つの要素の「学びの手法」(知的な世界との向き合い方=ライフスタイルの問題)のポイントをまとめてみよう。

 

 一つ目は、「言語」の学びの手法について。著者は、特にアカデミック・ライティング(相手が理解できる意味の明確な単語を使い、論理的に正しく意味が伝わる文章を書くこと)の重要性を説いている。そして、それを身に付けるためには、子どもの頃から論理構造や主語が明確に書かれた文章を読み、その構造をできるだけ把握するようにすること。また、自分の頭で考えを深め、それを言語化、つまり言葉にして話すようにすることなどが大切であると主張している。

 

 二つ目は、「物理」の学びの手法について。著者は、まず対象をよく観察して、「なぜ」と問い続けることの必要性を説いている。そのためには、子どもに対して大人は「なぜだろうね」「どうしてかな」「僕はこう思うんだけど、君は?」というスタンスで、一緒に考えること。また、そのような対話の中で子どもに科学的な観察眼を身に付けてさせていくことが大切であると主張している。

 

 三つ目は、「数学」の学びの手法について。著者は、実世界の対象を解析的にとらえる習慣やデータサイエンス、いわゆる統計処理や、物事の判断に確率や統計を使う考え方を身に付けることが大事だと説いている。特に解析的に考えるか、分析的に考えるかの違いを理解し、常に両者の領域を行き来しながら思考や判断を深めていくこと。また、そのためには観察を通したデータ収集に心掛け、仮説・検証を繰り返す習慣を身に付けていくことが大事であると主張している。

 

 四つ目は、「アート」の学びの手法について。筆者は、鑑賞したことを自分の中の文脈と照らし合わせて論理的に言語化して、演奏したり、描いたり、造形したりすることを繰り返す教育の大切さを説いている。そのためには、自分なりのアートの鑑賞法を身に付け、自分のコンテクスト(自分なりの観点、世界の見方)を踏まえて自由に意見を述べる習慣を付けることが大事であると主張している。

 

 以上、4つの要素の「学びの手法」のポイントをまとめたが、これらは前述したようにお互いの領域を行き来しながら考えた方がよい。また、できれば小さい頃から文系・理系を分けずに、両方学んでおくと、両者を無理なく行き来できる柔軟な知性を育むことができると著者は強調している。

 

   「STEAM教育」と4つの要素の「学びの手法」、これらが「ワークアズライフ」の生き方や「学び続けること=仕事をすること=生きること」の三位一体論の考え方を一人一人の国民に保障するための、これからの学校教育の在り方を示す指標になる。その成果は、自律的な学びを中核とした「生涯学習」に必ず発展していくであろう。