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「人生・生き方」「教育・子育て」「健康・スポーツ」などについて考え、雑学的な知識を参考にしながらエッセイ風に綴るblogです。

生きていくために大事なことを身に付けるための教育とは…

    我が国の学校教育のカリキュラムの基準を示す現学習指導要領の理念は、「生きる力」(確かな学力、豊かな心、健やかな体のバランスがとれた力)の育成であり、この理念は新学習指導要領においても継承されている。そのためには、各学校において「ゆとり」か「詰め込み」かという二項対立的な選択ではなく、それらを共に生かすような学び方によって効果的に育成することが求められている。特に今回の学習指導要領の改訂においては、「何を知っているか、何ができるか(個別の知識・技能)」・「知っていること・できることをどう使うか(思考力・判断力・表現力等)」・「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか(人間性や学びに向かう力等)」という、新しい時代に必要となる資質・能力の育成が強調されている。また、その実現のためには「主体的で対話的な深い学び」(アクティブ・ラーニングのこと)や「カリキュラム・マネジメント」の視点を重視することが求められている。なお、この新学習指導要領の全面実施については、小学校は2020年度から、中学校は2021年度から、高等学校は2022年度入学生からと、年次進行で行われる運びになっている。

 

 さて、今回の記事で取り上げる「生きていくために大事なことを身に付けるための教育」というのは、もちろん上述した新学習指導要領の理念や方策等を踏まえてはいるものの、それらとは少し位相の異なる視座からとらえようとしている。具体的には、前回の記事でも取り上げた『日本進化論』(落合陽一著)の中にある第4章「今の教育は、生きていくために大事なことを教えているのか?-『詰め込み型教育』と『多様性』を共存させる」の内容に依拠しながら、特に高等教育における問題を解決するという視座から学校教育の在り方を問おうとするものである。

 

 まず、現在の我が国の高等教育は、標準的な知識を効率的に詰め込むという点では世界でもトップクラスだが、グローバルに通用するクリエイティビティと多様性を備えた人材を輩出できている状況だと到底言えないと、著者は「THE 世界大学ランキング」のデータに基づいて分析している。では、どうすればよい方向に向かうのか。著者は、我が国の教育改革の重要な指針は、教育の目的を「標準化」から「多様化」にシフトさせることだと主張している。

 

 次に、これからの「教育」に求められる学び方について言及している。それは、「Ph.D(博士学位)の学習」と「詰め込み型の学習」の両立が大切であり、現状では大学入試が終わった瞬間に、それまでやってきた勉強についての価値観を全て忘れることだと提案している。そして、この学び方のアンラーニングを経ることで、「あらゆる前提は偽の可能性がある」という、懐疑的な思考に基づいたマインドセットを身に付け、「自ら問題を設定し、その解決を考えていく」という方向への教育のアップデートが求められているのである。

 

 さらに、我が国の大学が上述したような役割を果たそうとするとき、最大のライバルはオンライン教育になるだろうと著者は予測している。例えば、「MOOC」(マッシブ・オープン・オンライン・コース)は、一流大学の人気講師の授業をオンラインで受けられるサービス。また、「オンラインサロン」は、特定の分野の専門家が、持っている知識やスキルを活かして、Webを中心にファンの人たちと交流し、共に学び合うコミュニティ。それぞれが強みを持っており、何よりも既成の大学教育よりも学習効率が高く、学び方が多様化するのが確実である。もちろんこれまで通り大学による人材育成も大事であるが、これからの学びはこのような多様な教育機関を同時並行的に活用することが重要になってくるのである。

 

 今、大学は自らが果たすべき役割を考え直す時期にきている。高等学校までの画一的な価値観を意に介せず、評価基準を自分でつくり、自分で「美しい」と認めるものを追求するのがアカデミズムの世界であり、これからの時代に求められるのは、こうしたアカデミズム的な人材なのである。各大学は「多様性」のある教育を進めていく必要があると、著者は最後に締め括っている。

 

    私は著者のこのような主張の意図はよく理解しているつもりだが、義務教育学校の元教員の立場や経験等を踏まえて、初等・中等教育段階でも基本的には同様の主張を実践することができると考えており、実際に私は今までにそのような取組を精力的に行ってきた。言い換えれば、「ゆとり」か「詰め込み」かという二項対立的な選択ではなく、それらを共に生かすような学び方を保障する教育実践を積み重ねてきたのである。その中で、日ごと賢く、優しく、逞しく変容しながら成長していく子どもたちの姿を見て、そのような教育実践の成果を実感してきた。…「生きていくために大事なことを身に付ける教育」は、高等教育はもちろんだが初等・中等教育の現場でも積極的に実践すべきではないのだろうか。