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看護師に求められる資質・能力とは…~日野原重明著『これからのナースに実践してほしいこと―日野原重明から医療者へのメッセージ―』から~

   地元私立大学の看護科の学生を対象にした特別講義「役に立つ読解力を身に付けよう」を行っているということもあり、先日、市立中央図書館へ立ち寄った際に医療関係者や看護師向けの本を探してみた。次回の講義の際に紹介しようと考えたからである。また、「読解力」、特に「語彙力」を向上させるためには読書という活動は有効だと私は思っている。だから、学生たちにぜひ図書館を利用して、小説でもエッセイでも紀行文でもいいから本を読む習慣をまずは身に付けてほしい。その上で、看護師を目指す人たちなのだから、できれば医療関係者や看護師向けに書かれた本を読んでほしいのである。

 

 そこで今回は、看護科の学生に紹介するための教材研究の一環として、私が先日借りた本の中の一冊、日野原重明著『これからのナースに実践してほしいこと―日野原重明から医療者へのメッセージ―』の内容概要とその所感をまとめてみたい。

 

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 100歳を超えても現役内科医として、東京の聖路加国際病院で診療に当たり、年間100もの講演や小学校での「いのちの授業」のほか執筆活動も精力的にこなしていた「高齢者の星」・日野原重明氏は、2017年7月18日早朝に呼吸不全のため逝去された。1911年、牧師の息子に生まれ敬虔なクリスチャンになり、少年期を神戸で過ごして、京都帝大(現京都大)を卒業。1941年から聖路加国際病院に勤務。国内でいち早く人間ドックを開設し、予防医学に取り組んだ。生活習慣の改善による予防を念頭に、「成人病」の代わりに「生活習慣病」という新語を提唱。また、米国留学で学んだ医療の在り方や医療者教育を取り入れ、「患者本位の医療」も提唱。末期患者のケアの重要性を訴え、看護師教育の充実にも努めた。2000年には、高齢者が積極的に社会に参加、貢献する意義を説き「新老人の会」を設立。90歳で出版した『生き方上手』は多くの読者を得た。さらに、波乱に満ちた人生でも知られる。東京大空襲地下鉄サリン事件では、多くの被害者を病院に受け入れた。1970年の赤軍派によるよど号ハイジャック事件では、偶然乗り合わせて人質に…。「あの事件で人生観が変わった。与えられた命を人のために捧げようと思った。」と振り返り、その後の人生をこの言葉のとおりに「利他の精神」を貫いて生き切った。実に見事な105年の人生であった。

 

 本書は、今から18年前の2001年から始めた中山書店主催の全国セミナー(六会場)で著者が講演してきたことを中心に再構成し、加筆・訂正したものである。「まえがき」は、その署名が2017年5月になっている。亡くなる約2か月前に書かれているから、著者の最後のメッセージになったのではないかと思う。そして、本章の六つの講演内容は、著者が医師になって以来、自身の頭の中で考え、それを行動しようと努力し、実践してきた思いを語っている。さらに、その思いをこれからの看護を担う医療人である看護師に引き継ぎ、実現してほしいという熱い願いがこもっているものである。

 

 では、これらの講演内容の中で、私の心に深く残ったことをいくつか述べてみよう。

 

 まず一つ目は、「21世紀の看護は、今までどおり感性をもって患者さんの側に立ったケアは絶対に必要だけれども、看護師が近代的なサイエンスを習得しなければ充分な看護はできなくなる」、さらに「これからは、看護師がプライマリ・ケアを担う時代になってくる」ということを強調している点。著者は、ウィリアム・オスラー氏の「医学はサイエンスに基づいたアートである」という言葉を発展させて、「医学・看護はサイエンスに基づいたアートである」と言っている。これからは、今までのように看護師が医師に従属した状態ではなく、「高い感性と人間性」と共に「知識」と「技術」を持つような実力をつけて、ナースとしてのアートパフォーマンスを行うことが求められているのである。

 

 次に二つ目は、ウィリアム・オスラー氏がナースに必要な徳として挙げた「機転、清潔、寡黙、思いやり、優しさ、明るさ、これら六つの要素をつなぐ慈悲の心」という七つの徳のこと。特に、著者がナースに一番大切だと考えている徳は、「機転が利くこと、頭の回転が速いこと」。そして、その次に「明るさ」。ナースが部屋に入って来ると、ひまわりが現われたように周囲がパッと明るくなる存在であってほしいのである。この点は、私も同感である。というのは、私が初めて入院生活をした際に、自分の病気のことが心配で堪らなくなり、これからの自分の人生に対して悲観的な気持ちに襲われて、不安の真っ只中でベッドに横たわっていた。そんな時に点滴を換えに来た担当のナースの明るい笑顔は、何事にも替えがたい癒しになったという経験があったからである。

 

 最後に三つ目。これからの看護師は、臨床の看護と同時に、看護を支える高いレベルの基礎医学及び臨床医学的な知識と技術を持ちながら、医師と協力して働くことが大切であるということ。そして、看護師がチーム医療に参加している医師と仲良く仕事をするために求められる資質・能力として、著者は次の八つのことを挙げている。「①協調性 ②他の職種への配慮 ③寛容性 ④責任感 ⑤時間の正確さ ⑥リーダーシップ ⑦専門知識 ⑧凛々しい行動」。これらの資質・能力は、他の職種においてもチームで仕事をする場合には必要不可欠な資質・能力だと思うが、これから看護師を目指そうとする学生たちには、ぜひ知っておいてほしいことである。次回の特別講義の中でも少しは触れたいと考えている。