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「給特法」の下での公立学校の教員の「働き方改革」の中身とは…~内田良・苫野一徳著『みらいの教育―学校現場をブラックからワクワクへ変える―』を参考にして~

   長時間労働による過労死等を防止し、労働環境を改善するために、今「働き方改革」が推進されている。そのような中、民間の大企業では本年4月から労働基準法に則って罰則付きの時間外労働の上限規則が適用され、私の勤務する公益財団法人の事業団にも同様の規制が適用されている。また、中小企業においては来年4月から適用されることになっている。しかし、公立学校はそこには含まれていない。それは、公立学校の教員の時間外勤務が原則、勤務として認められていない「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」(略して、「給特法」)の存在があるからである。では、この「給特法」とはどのような法律であり、その下で現在行われている公立学校の教員の「働き方改革」の中身とは一体どのようなものなのだろうか?

 

 そこで今回は、『みらいの教育―学校現場をブラックからワクワクへ変える―』(内田良・苫野一徳著)を参考にして、「給特法」の規定内容やその下での公立学校の教員の「働き方改革」の中身について、私なりに調べたり考えたりしたことをまとめてみたい。

 

 まず、公立学校の教員の時間外勤務に関する事項を規定している「給特法」とは、どのような法律なのかについて簡単にまとめておく。

 

   「給特法」は、「公立の義務教育諸学校等(学校教育法に規定する公立の小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校または幼稚園)の教育職員の職務と勤務様態の特殊性に基づき、その給与その他の勤務条件について特例を定める」(第1条)ために、1971年5月に制定された。そしてその第3条では、「給料月額の百分の四に相当する額を基準として、条例で定めるところにより、教職調整額を支給しなければならない」(第1項)と定められている。他方で、4%の教職調整額を支給する代わりに、「時間外勤務手当及び休日勤務手当は、支給しない」(第2項)ことが明記されている。つまり、残業代は支給しないけれども、給料月額の4%をあらかじめ支給するという規定である。ただし、例外的な時間外勤務に関して、「校外学習その他生徒の実習に関する業務」「修学旅行その他の学校の行事に関する業務」「職員会議に関する業務」「非常災害の場合、児童又は生徒の指導に関し緊急の措置を必要とする場合その他やむを得ない場合に必要な業務」の4項目(「超勤4項目」あるいは「限定4項目」という。)を政令で定めている。

 

 なお、「教職調整額」における給料月額の4%分というのは、1966年度に文部省(現文部科学省)が実施した「教員勤務状況調査」において1週間における時間外勤務の合計が、小中学校で平均1時間48分であったことから算出されたものであり、教職という仕事の特殊性に沿った合理的な仕組みであった。ところが、2016年度に実施された文部科学省の「教員勤務実態調査」の結果を見ると、小中学校の1週間における時間外勤務の合計は平均約20時間にもなり、多くの教員が「給特法」制定当時に比べると約10倍の時間外勤務を強いられている、「過労死ライン」を越える違法な勤務が常態化しているのである。このような実態そのものが大問題だが、その上に「教職調整額」はその対価としては全く不十分である点について一般国民の多くは知らないのではないだろうか。

 

 以上のような現状を踏まえて、文部科学大臣中央教育審議会に対して「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について」諮問した。そして、中央教育審議会は審議を重ね、その成果を整理しまとめた答申を平成31年1月25日に文部科学大臣へ提出した。

 

 本答申の「第6章 教師の勤務の在り方を踏まえた勤務時間制度の改革」において、「給特法の今後の在り方」について言及している。その概要は、次の通りである。

○ 勤務時間の上限ガイドラインにおいて、「超勤4項目」以外の業務のための時間についても勤務時間管理の対象とし、その縮減を図ることが必要。

○ 専門職としての専門性とも言える教師の職務の特徴を踏まえた検討が必要。

○ 「給特法」を見直して「労基法」を原則とすべきという意見に対して、教育の成果は必ずしも勤務時間の長さのみに基づくものではなく、「人確法」も含めた教師の給与制度も考慮した場合、必ずしも教師の処遇改善にはつながらないと懸念。

○ 「超勤4項目」の廃止や「36協定」(時間外労働に関する労使協定。労働基準法36条に基づき、会社は法定労働時間〈主な場合、1日8時間、週40時間〉を超える時間外労働を命じる場合、労組などと書面による協定を結び、労働基準監督署に届け出ることが義務づけられている。違反すれば6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金。)を要することは、現状を追認する結果になり、働き方の改善につながらない、また、学校において現実的に対応可能ではない。

◎ したがって、「給特法」の基本的な枠組みを前提に、「働き方改革」を確実に実施する仕組みを確立し成果を出すことが求められる。

※ なお、教職調整額が4%とされていることについては、在校等時間縮減のための施策を総合的に実施することを優先すべきであり、必要に応じ中長期的な課題として検討すべき。

 

 次に、具体的に現在行われている公立学校の教員の「働き方改革」の中身についてまとめておきたい。本答申の「第3章」~「第5章」においてその施策内容が示されているので、次に幾つか挙げておこう。

○ 校長がICTやタイムカードなどにより教員の勤務時間を客観的に把握し、その管理を徹底すること。

○ 「労働安全衛生法」に義務付けられた労働安全衛生管理体制を整備すること。

○ 教職員一人一人の働き方に関する意識を改革すること。

○ 学校及び教師が担う業務の明確化・適性化を図ること。特に学校において、教職員間で削減する業務を洗い出し、校長が自ら権限と責任で必ずしも適切とはいえない又は本来は家庭や地域社会が担うべき業務を大胆に削減すること。

○ 学校が組織として効果的に運営されるような体制づくりをすること。

 

 最後に、私なりの考えを簡潔にまとめてみたい。上述したように、公立学校の教員の時間外勤務について給料月額の4%に当たる「教職調整額」を支給するだけの、言い換えれば「定額働かせ放題」を容認している「給特法」の改正を見送って、教員の「働き方改革」の中身を各都道府県及び市町の教育委員会や各学校現場へ丸投げしているような文部科学省の施策は、本当に「過労死ライン」を超えて働いている教員を何とか救いたいという強いメッセージ性をもつものではないと考える。もちろん学校現場において時間外勤務を縮減するための具体的な手立てや取組等を実行することは必要である。しかし、実際には新学習指導要領の全面実施を目前にしている小学校教員の場合、新たに導入される「外国語(英語)科」「特別の教科 道徳」「プログラミング教育」等に取り組むための準備事務や研修等という業務が増えており、教員の業務量削減という「働き方改革」は“絵に描いた餅”になるおそれが十分に推察される。そこで、私は今の教育予算の枠を超えた多くの教員を学校現場に配置したり、学校が抱えている業務内容の中で可能なものをアウトソーシングしたりするように、その予算をもっと増額すべきだと考える。せめて先進諸国のGDPに対する教育予算比率並みに増やしてほしいものである。そうすれば、結果的に一人一人の教員の業務量が削減されることになるであろう。

 

    教員の「働き方改革」の成果は、必ず子どもたちの教育の質の向上に繋がる。「教育は国家百年の大計」という言葉に相応しい「給特法」の改正とそれに即応した教育行政を!!