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「教職のもつ魅力や醍醐味」とは…~鹿嶋真弓著『教師という生き方』を読んで~

 近年、公立学校の教員の「働き方改革」やそれに伴って議論になっている「部活動」指導の在り方の視点から、教職のブラックな面が強調されるようになってきた。また、最近の当ブログの記事内容も同様な視点から綴ったものが多くなっている。しかし、私は教職を38年間務めて定年退職した身であり、「そうは言っても、やはり教職には大きな魅力があり、教職に就いた者でないと分からない醍醐味があるんだよなあ。」とつい呟いてしまう。そのような気分でいた私がある古書店で何気なく書棚を眺めていた時に、『教師という生き方』(鹿嶋真弓著)という本に目が引き付けられたのは当然のことであった。パラパラとページをめくってみると、私自身の懐かしい思い出を想起させるような様々な教育事情が記載されているではないか!私は早速購入し、ここ数日間は公私ともに多忙だったが、何とか暇を見つけて読み通した。

 

 そこで今回は、「教職のもつ魅力や醍醐味」について、本書を読んで私が特に共感したことを中心に綴ってみたいと思う。

 

 著者の鹿嶋氏は、東京都内の公立中学校で理科の教師として30年間勤務した後、神奈川県逗子市教育研究所の所長を経て、2013年1月より高知大学教育学部准教授に就任。その後、教授になり退官。現在は、立正大学特任教授。公立中学校に勤務していた頃、荒れた学年、学級が教師の働き掛けを通して、温かみのある学年集団、学級集団へと成長する過程を目の当たりにする経験をした。その時に「構成的グループ・エンカウンター」を実践的に取り入れており、その一部がNHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」等で紹介されたこともある。また、ソーシャルスキルレーニングや応用行動分析、教育のユニバーサルデザインの視点に立った授業改善、主体的・対話的で深い学びのための準備体操としての「ひらめき体験教室」等、広く教育現場に活かせるワークショップを展開している。

 

 本書はそのような著者が、「教育は未来を創る仕事!」という強い信念の下、自身が妊娠・出産・育児等を経験する中で悪戦苦闘しながら教育実践してきた内容に基づいて、「教職のもつ魅力や醍醐味」について綴ったものである。全体の構成は、「はじめに」「1章 学校という職場」「2章 生徒と向き合う」「3章 教師としてのスキル」「4章 変わる教室」「おわりに」となっており、私は2章の内容に共感するする部分が多かったので、その幾つかを紹介してみよう。

 

 まず、「教師になったからには担任にならなくてはその醍醐味は味わえません。」と言い切る著者が、学級崩壊になっているクラスの担任になり、「情熱で勝負」と意気込んで荒れた生徒たちと本気でぶつかっていく姿に、私は震えるような感動を覚えた。どんな生徒も見捨てない、よくないと思ったら誰だろうと注意する、彼らが抱える悩みや苦しみにも一緒に向き合う、授業を楽しくする工夫を常に考える。担任だったら当たり前の仕事だろうと、教職以外の仕事に携わっている方は思うかもしれない。しかし、この当たり前のことをどのような厳しい情況の中でもやり通すことはとんでもなく困難なことなのである。著者が何事にもありったけのエネルギーを費やす姿に、保護者から「女金八!」と言われるようになったとか…。そして、一人一人の生徒と教師がつながり、生徒との関係性ができてくると、教室内に“安心”の空気ができてくる。さらに、生徒たちが本音と本音の交流ができるようになると、教室内に“安全”の空気ができてくる。つまり、「教師がつながり、教師がつなげる」ことで、当初は荒れた学級が徐々に居心地よくなっていき、教育効果のある集団へと変貌を遂げていくのである。このように教師としての情熱に支えられた努力や工夫が報われるような経験ができること、これが「教職のもつ魅力や醍醐味」の一つなのである。

 

 次に、それまで「情熱」だけで勝負してきた著者が、どのように取り組んでも荒れた生徒たちとの信頼感を構築できなくて「人間やめようか。教師やめようか。」「せめて人間としての機能を失わないうちに、退職しよう。」と追い詰められていた時、同学年の他の5人の教師とともに「構成的グループ・エンカウンター」という手法(技)を取り入れた実践を行い、その困難な情況を少しずつ克服していった経緯を綴った箇所は私の胸をカッと熱くした。学級崩壊に対するストレス、それを何とかしなければという焦り、そんな中でも頑張っている生徒の期待に応えなければというプレッシャー、組織内の評価、等々。学年団の教師同士が他人に弱みを見せることができなかった当初から、教師たち自身がエンカウンターによって自己開示をし、本音を言えるようになっていく。6人の教師たちが自らを「運命共同体」と呼ぶようになり、「同僚性」をより高めていく。それに伴って、各教師が担任する学級でもエンカウンターを少しずつ取り入れていった結果、3年に進級したその学年の担任を6人全員が持ち上がった時、「この6人の先生たちなら、どの先生が担任でもいいなぁ~」と生徒たちが言ってくれたそうである。教師にとって最高の褒め言葉である。このように生徒との絆だけではなく同学年の教師同士の絆がより深まり、そのことが生徒との信頼感をより高めるような経験ができること、また単なる「情熱」だけでなく、困難な情況を克服することができる教育手法(技)を活用してよりよい結果につなげていくような経験ができること、これらも「教職のもつ魅力や醍醐味」なのである。

 

 私は中学校での勤務は管理職だったのでここまで深い経験はしていないが、小学校では23年間学級担任をしてきたので、著者の経験を概ね追体験することはできる。確かにこのようなよい結果に結びついた実践だったから言えることではあるが、教職は決してブラックな面だけでなく、著者の言う「教職のもつ魅力や醍醐味」のような面もあることを多くの人に知ってもらいたいと、私は強く願っている。