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文章を要約するコツについて~野矢茂樹著『大人のための国語ゼミ』から学ぶ~

   地元の私立大学看護学科の学生に対する特別講義「役に立つ読解力を身に付けよう」の後半の授業に備えて、私は今『大人のための国語ゼミ』(野矢茂樹著)という本を読んでいる。著者は現在、東京大学大学院総合文化研究科教授で哲学を専攻している方である。哲学者がなぜ国語の教科書のような本を執筆したのか。その理由の一つは、今更日本語を学ぶ必要なんかないと思っている人たちを振り返らせるため。もう一つは、国語が苦手だと思っている人の「国語力」を鍛える手助けをするためだそうである。著者は、きちんと相手に伝えられる文章を書き、話す力、そしてそれを的確に理解する力、つまり「国語力」を大人も鍛えなければならないという強い思いで本書を上梓したのである。

 

 そこで今回は、本書の内容の中でも特に「文章の要約」に着目し、そのコツについて著者の考えを整理しながらまとめてみたい。

 

 おそらく「読む」ということが苦手な人は、そこに並んでいる全ての文、全ての言葉が、等しい重みに感じられているに違いないと著者は言う。そして、文章を木に例えれば、幹(中心的主張)も枝葉(解説、具体例、横道、補足、繰り返し、根拠等)も区別なく、ただ入り組んだ藪のように見えるので、読むのもつらいだろうと想像している。だから、文章を読むときには、幹と枝葉を区別しなければならないと、文章を要約することの必要性を述べている。

 

 「文章の要約」とは、単に文章を短くするというだけではない。文章の枝葉を切り取り、幹だけを残すこと。言い換えれば、文書の中で要点と呼ばれる重要な部分をまとめて、短く表現することである。したがって、「文章の要約」の練習をすることによって、言葉の重みに対する感覚が鍛えられ、メリハリのある読み方ができるようになる。より速く、より正確に内容がとらえられるようになり、「読解力」が高まるのである。また、自分で文章を書くときにも決定的に重要な力になる。総合的な「国語力」を鍛えることができるのである。

 

 まず、著者は具体的に「短い文章の要約」の問題練習の例題を幾つか示しながら、「文章の要約」のコツについて次のような7つのアドバイスをしている。

  1. 具体例は多くの場合に切り取ることができる。
  2. 補足説明は多くの場合に切り取ることができる。
  3. 横道への脱線は切り取る。
  4. 繰り返しは適切なものを一つ残すか、自分で一つにまとめる。
  5. 導入部は多くの場合に切り取ることができる。
  6. 中心的主張に対する解説は基本的に切り取ってよい。
  7. 中心的主張に対する根拠はケース・バイ・ケースで判断する。

 

    次に、「もう少し長い文章の要約」の問題練習の前に、要約文を書く前の下準備について、次のようなことを述べている。…初めに文章の中で、切り落とす部分と残す部分の候補を区別していく。ここで大事なことは、読み始めてすぐにこの作業に取り掛からず、最後まできちんと読むこと。そして全体を視野に入れた上で、もう一度最初から作業をしていく。次に大まかな切り落としをしたら、残った部分だけつないで読んでみる。そうすると、さらに切り落とせる部分が見えてくるかもしれない。そうして何度も読み直しながら作業していく。最後に、残った部分を用いて要約文を作る。その際、必要があれば、適当に自分で簡潔な文章に書き直す。このような「切って、つないで、書き直す」という作業を下準備として行うことが大切である。

 

 なお、著者は「文章の要約」をするときには、何通りかの字数で異なる要約文を作ってみることがよい練習になるとも述べている。その理由は、「言葉の重み」は程度差があり、微妙な場合があり、例えば200字の要約ならば残す部分が、100字では削るということが起きるからである。つまり、このことはその部分の重要さの程度を示しており、「言葉の重み」に対する「感覚」を磨くことになるからである。同じ言葉であっても、その軽重は文脈によって変わるので、ケース・バイ・ケースで判断するしかよい方法はないのである。私は、具体的なアドバイスを単にマニュアル化して行っただけでは適切な「文章の要約」はできないということを、実際に本文の例題を解きながら再認識した。

 

 今、看護学科の学生に対する特別講義の一つのテーマとして「文章の要約」を取り上げようと、後半の講義計画を構想している。実際の授業展開においては上述した内容を十分に踏まえた上で、「文章の要約」の問題練習という学習活動が学生たちにとって「役に立つ読解力を身に付ける」ことにつながるように、指導内容及び方法等を工夫したいと考えている。では、そのために他の参考文献にも目を通して、もう少し教材研究を深めていこう!