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健康診断と職場の健康管理との関連について考える~亀田高志著『健康診断という「病」』を参考にして~

    今月26日(月)に、65歳を迎える節目の人間ドックを受診した。場所は、本県の総合保健協会という公益財団法人の建物である。3年前にも受診した場所なので、当日の朝は8時に自宅を愛車でスタートしてから10分間ほどで迷うことなく会場へ着くことができた。しかし、受付開始時刻が8時であったにもかかわらず、案内係の職員から受け取った受付番号は何と「21」であった。当日の人間ドック受診者数は確か30名を切っていたので、多くの皆さんは来所番号札を配布する7時半には来ていたのだろう。日本人は何事にも時間を無駄にしないという生活習慣が身に付いているのだなあと、自分勝手な解釈をして納得してしまった。

 

 さて、当日、私は9時頃から11時半頃までの間に「人間ドック1日基本コース」の内容である、診察や身体測定、そして視聴覚・循環器・呼吸器・消化器・尿・腹部超音波・生化学・血液学・免疫学等の各種検査を順次、受診した。各健診場所を担当している看護師さんたちが丁寧かつ手慣れた対応をしていたので、それぞれの待ち時間はあまり長くはなかった。私は、その断片的な待ち時間を有効活用して『健康診断という「病」』(亀田高志著)という本を読み進めた。著者の亀田氏は、産業医科大学卒業後、企業立病院での臨床研修を経て、大手日本企業や外資系企業での産業医を長年努め、現在は企業や自治体等でのコンサルティングや研修、講演、執筆活動をしている医師である。本書は、自らの健康を保つコツをビジネスの最前線で活躍している方々に分かりやすく解説したいと考えて執筆されたものであり、特に「職場の定期健康診断が働く者の健康を本当に守っているか」に関する医学的な知識をやさしく紹介している。

 

 そこで今回は、本書を参考にして「健康診断と職場の健康管理との関連」について、初めて得た知識や私なりに考えたことをまとめてみたいと思う。

 

 平成28年度末に厚生労働省が公表した「労働安全衛生法に基づく定期健康健診等のあり方に関する検討会報告書」の中に、健康診断の目的が明示されている。簡単に分かりやすく紹介すると、「今の作業や労働に耐えられるか、それを続けさせても、脳卒中や心臓発作を起こしたりしないかを確認し、それらを防止するために行う」とある。つまり、「健診」は福利厚生の一環としてのサービスではなく、本質的には会社のために行われているのである。因みに、何らかの病気を早期発見するために検査を行うことを「検診」と呼び、全般的な健康状態や将来のリスクを含めて評価することを「健診」と言うらしく、後者は原則的には未然防止と健康な状態の維持が目的なのである。ただし、日本の定期健診は「検診」の色合いはないことはないとのこと。しかし、私たち働く者としては、もっと「検診」を重視するようなものにしてほしいものだ。

 

 健康診断の目的を踏まえれば、定期健診は会社や企業側の立場から働く者に対して「ドクターストップ」をかけるか否かを判断するものになるのが、本来的であると言える。たから、産業医は健康診断のデータを評価して、3つの「診察区分」を行う。このうち、「要観察」と「要医療」の場合に、保健指導を行うかどうかを決める。そして、その人の仕事や職場環境と照らし合わせて、そのまま働いてよいか、勤務に制限を加える必要がないかを判断する。これを「就労区分」(通常勤務、就業制限、要休業)と呼ぶ。この中の制限等が必要な場合には産業医は会社や企業に意見するが、具体的な就業制限には、勤務時間や時間外労働の短縮、出張や作業負荷の制限、作業の転換、就労場所の変更、深夜勤務の減少、深夜勤務から昼間勤務への転換等がある。会社や企業は産業医の意見を参考に、本人の事情もよく聞いて、管理監督者に説明して上で、これらの制限や一時的な休業を決定することになる。ただし、健診結果やこの就労区分を基に会社や企業が不当解雇等をしてはならないことも法律に定められている。また、定期健診で重病であることを産業医が把握すると、会社や企業では重い病気を持つ人を働かせてはならないという「病者の就業禁止」と呼ばれる定めが適用されることがある。働く人が注意する必要があるのは、定期健診の診察区分で「要医療」と判定され、病院での精密検査や治療を勧められていても放置していると最悪の場合、「就業禁止」になってしまうことがあることである。

 

 上述したことでも触れたように、定期健診が着目しているのは、あくまで動脈硬化による脳卒中や心臓発作、そして結核である。しかし、日本における三大死因は、「がん」「脳卒中」「心臓発作」である。にもかかわらず、実際には画像診断や細胞の検査以外に、がんを直接検出できる健診レベルの調査項目は皆無に等しいのが現状である。最近は、人間ドックにおいては徐々に「がん検診」の内容も組み込まれているが、定期健診の内容はまだまだである。したがって、ほとんどの場合は「がん検診」は自分で受けに行かなくてはならないのである。定期健診の中に「検診」の趣旨をもっと生かした内容になることを願うのは、私だけではないと思う。今後、この点で検討を加えてほしいと念願する。

 

 ところで、私が受診した先の人間ドックの健診結果はどうだったかというと、肝機能検査の中の「r-GTP」(肝臓の解毒作用に関する酵素)と脂質代謝の「LDLコレステロール」(悪玉コレステロール)、糖代謝の「HbA1c(NGSP)」(過去1~2か月の血糖の状態)の数値がやや基準値範囲を超えていた。しかし、当日の午後に行われた医師による診察と速報結果の説明では、「同世代の方の中では健康体と言ってもよい状態である」というお墨付きをいただいた。私は以前の記事でも書いたように、健診結果の数値に一喜一憂する必要はないと考えているが、上述の医師の言葉にはつい頬が緩んでしまった。「これからも今の食事や運動、睡眠等に係わる生活習慣を維持していこう!」と、心の中でそっと呟いた。