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初のベスト8になったラグビー日本代表の強化に尽力したミスター・ラクビーの挑戦!~平尾誠二著『「知」のスピードが壁を破る―進化しつづける組織の創造―』を読んで~

     11月2日(土)、日本で開催された第9回ラクビーワールドカップの決勝戦が、横浜国際総合競技場を会場にして行われた。結果は、南アフリカ共和国が32対12でイングランドを撃破して3度目の優勝を飾った。この約1か月半の間、多くの日本人がラクビーというスポーツに熱狂した。それは、日本が予選プールAで4戦全勝して、ワールドカップ史上初のベスト8に進出したことが大きな要因であった。また、それを契機にしてラグビーというスポーツのもつ面白さや醍醐味を、多くの日本人が初めて知ったことも背景にあったと思う。かく言う私自身、4年前にイングランドで開催された第8回大会の予選プールで、日本が南アフリカ共和国に接戦の末、劇的な勝利を収めるという歴史的快挙を成し遂げて以来、ラクビーというスポーツに魅入られたという「にわかファン」なのである。おそらく今回の第9回大会によって、日本人の中で「にわかファン」になった方もたくさんいるのではないだろうか。

 

 ところで、残念ながら敗れてしまったが、日本が準々決勝で南アフリカ共和国と対戦した10月20日(日)は、元日本代表選手であり後に代表監督にもなった“ミスター・ラグビー”と呼ばれていた平尾誠二氏の命日だったことが、各種マスメディアによって報道されていたことを覚えている方も多いと思う。平尾氏が胆管細胞がんという病によって死去したのは2016年10月20日、享年53歳という若さであった。これからの日本ラグビー界の発展や飛躍にとっては、不可欠な人材であっただけに本当に惜しまれる。

 

    平尾氏は、伏見工業高校が全国大会で初優勝した時のキャプテンであり、同志社大学では史上初の全国大学選手権大会3連覇、社会人時代には神戸製鋼を日本選手権7連覇に導いた立役者であった。また、史上最年少で日本代表入りしてラグビーワールドカップの第1回~第3回大会に出場し、特に第2回大会では日本がワールドカップ初勝利を飾った対ジンバブエ戦の原動力として活躍した選手であった。さらに、史上初めて外国人選手(アンドリュー・マコーミック)を日本代表のキャプテンに指名した監督でもあった。前回と今回の大会ではリーチマイケル選手という外国人がキャプテンを務めており今では当たり前のようだが、当時は日本代表のキャプテンに外国人がなるということについて、様々な反発があったと思われる。しかし、平尾氏には日本代表を強くし世界の強豪国と対等に戦うことができるチームにしたいという情熱があったのである。

 

 その平尾氏には日本代表の監督就任期間中(1997年~2000年)に著した著書『「知」のスピードが壁を破る―進化しつづける組織の創造―』があることを、皆さんは知っているだろうか。実は私も最近まで知らなかったのだが、先日たまたま今の職場の近くにある県の生涯学習センターの図書館に立ち寄った際に、偶然見つけて初めて知ったのである。私は本書を早速借りてここ数日をかけて読み通してみたが、どのページにも平尾氏の熱い思いが綴られており、私はその大きな目標に挑戦し続ける姿勢に感銘した。

 

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 そこで今回は、本書の読後所感を私なりに簡単にまとめるとともに、これからの日本ラグビー界への期待を綴ってみたい。

 

 監督として平尾氏が掲げた「ジャパン・プロジェクト」の目的は、強いチームをつくるには強い「個」をつくること。誰から言われて努力するのではなく、自分で自分を成長させていけるような、自発性と自主性をもったプレーヤー。言い換えれば、自分の頭で考えることができて、しかもそのスピードが速いプレーヤーを育てることである。しかし、強化に当たって困難だったのは、「知のスピード」を育てることだったと回想している。そして、日本代表チームを本当に強くしていくためには、ラグビーを取り巻く総合的な環境から変えていくこと。つまり、国内で緊張したハイレベルなゲームが増えていくようにすることや、中学・高校・大学・社会人レベルまで選手の自発性を育てる一貫した指導を行っていくことが必要であると感じたと言う。私は、平尾氏が掲げたこれらの課題を日本ラグビー界が一つ一つ克服してきた強化の成果が、前回及び今回大会の日本代表が残した戦績に現われたと確信している。もちろんエディー・ジョーンズやジェイミー・ジョセフという、非常に高い指導力を持ったヘッドコーチの存在は忘れてはならないが…。

 

 監督としての平尾氏が、2年8か月の間に全精力を傾注してきた日本ラグビーの改革内容の概要についても触れておこう。

 

    まず、強化推進体制を従来の「縦列型組織」から、テクニカル・総務・広報といったセクションを日本代表チームと同列・同格にして継続した強化ができるような「並列型組織」へと改革した。また、代表選手一人一人が「このチームを強くしたい。」という強いモチベーションをもつような様々な手立てを講じた。その一つが、勝つための情報戦略を立てる「テクニカル部門」の設置であり、それを最大限に活かしたコーチングの工夫である。コーチは、従来の「命令型」から「提案-誘導型」へと改革した。これらの改革は、練習一つにも意味を持たせた実戦に即した練習内容を創造することに繋がった。また、その成果として、常に状況が変化するゲームの中で、瞬時の判断力で多様な局面を突破することを可能にする「シンキング・スピード」をチームにもたらせることになったのである。

 

    次に、選手にとって当初はコンバインドチームとしてしか意識していなかった「日本代表チーム」を、第一のプライオリティをもつ「チーム・ジャパン」というモチベーションに高めるために、「ワールドカップで勝つ」という同じ目標を持たせる働き掛けをした。このことは、今回大会でも日本代表が掲げていた「ワンチーム」というスローガンに引き繋がれていると思う。また、組織の成長に合わせて、チームコンセプトも変えていった。具体的には、“Take a Step forward”→“Play for Yourself, Fight for JAPAN”→“リズム&テンポ”→“クイック&オプション”という流れである。その中で、選手たちは徐々に自主的に練習に取り組み始め、トライ・アンド・エラーを繰り返しながら判断力を育てていき、チームとして大きく成長していったと言う。やはり強いチームを作っていくには、指導者の確かな指導理念に基づく有効な手立てが必要なのだと、私は改めて再認識した。

 

 さらに、弱者が強者に勝つための知略として、1ゲームでの失点を30点以下、被トライ数を3以下に抑えることを目標に設定したと言う。このことは、ゲームが接戦になることを意味し、勝ちが射程距離にあることを意味する。このような目標の示し方によって、選手はどんなゲームを目指せばよいか理解できたのではないかと述懐している。また、「40メートル、40秒」や「クイック&オプション」「最初の10分、ラストの10分」というような戦略が、体格に恵まれない日本が岩のような強豪国を穿つことになることを教えたのである。そして、テクニカルとコーチングを密接に連動させて進化し続ける強化体制を構築しつつ、「人間力」のあるコーチングによって選手を変えていったのである。

 

 最後に、平尾氏はルール改正によって変貌する世界のラグビーに対して、日本も変化の時代をリードすべくアジアからの新しいプレーを発信し、ルールを提案していくべきであると力説している。日本ラグビー界はもう「世界に追い付け、追い越せ」の時代ではなく、「世界をリードせよ」の時代へと移っていくべきなのだ。私は今回大会のベスト8進出の快挙をきっかけにして、日本ラグビー界の新たな挑戦を大いに期待している。そのために一国民としてこれからも日本ラグビーを応援し続けていきたい。そして、遠くない未来に、日本代表が準決勝、決勝の舞台に上ることを楽しみにしている。ガンバレ!ジャパン!!