前回の記事で、「哲学対話」の特徴や対話のルールについてまとめるとともに、これから本県の教職員を対象にした「哲学対話」を開催したいという私の考えと、その具体化のための準備を始めたいという思いを綴った。その後、私は「哲学対話」の具体的なイメージを少しでも知りたいと思い、以前購入していた『哲学カフェ!―17のテーマで人間と社会を考える―』(小川仁志著)に目を通してみた。
著者の小川氏は現在、山口大学国際総合科学部教授で、公共哲学・政治哲学を専門としている。商店街で「哲学カフェ」を主宰するなど、市民のための哲学を実践している行動派の哲学者である。著書は多数あり、私の本棚にも本書以外に『日本を再生!ご近所の公共哲学』『日本の問題を哲学で解決する12章』『はじめての政治哲学』『超訳「哲学用語」事典』『日本哲学のチカラ』『「道徳」を疑え!―自分の頭で考えるための哲学講義―』『自分のアタマで「深く考える」技術』『覚えるだけの勉強をやめれば劇的に頭がよくなる』等が並んでおり、私は東西の哲学や道徳教育について平易な語り口で述べる彼の著書の愛読者である。
さて、本書の書名にもなっている「哲学カフェ」についても触れておこう。哲学的な議論をするための草の根の公開討論会を意味する「哲学カフェ」は、1992年12月13日に哲学者マルク・ソーテがバスティーユ広場のパリ4区側にあるカフェ「フェ・デ・ファール」で開いたのが最初だと言われている。また、日本おいては2000年、大阪大学の臨床哲学研究室が哲学対話イベント「哲学カフェ」を開催したのが初めての取組らしい。その後、高等専門学校や大学等で開かれ、次第に全国各地でも開かれるようになった。物事を一人で考えているより、多くの人の意見を聞きながら、みんなで対話しつつ考える哲学のスタイルの方がいいアイデアが出る場合もある。それこそが、「哲学カフェ」の発想なのである。
本書は、著者が実際に行った「哲学カフェ」の内容を再構成して実録風に著した読み物である。登場人物は実在する人物がベースになっている架空の6名を設定してライブ感を再現しており、著者は「先生」という立場で登場している。各章において3~5つで構成している17のテーマは、次のとおりである。
【1章】「人間関係」を哲学する
① 男と女は区別すべきか?
② なぜ、他人と違うことをすると嫌われるのか?
③ いじめはなくすことができるのか?
【2章】「愛」を哲学する
④ ミス・ユニバースは本当に美しいか?
⑤ 恋と愛はどう違うか?
⑥ 人間は結婚すべきか?
【3章】「暴力と権力」を哲学する
⑦ 暴力はなくならないか?
⑧ なぜ、人間は戦争を繰り返すのか?
⑨ 権力は悪か?
【4章】「社会」を哲学する
⑩ 国は、どこまで国民の面倒を見るべきか?
⑪ なぜ、環境問題は解決しないのか?
⑫ 正しいことは誰が決めるのか?
【5章】「幸福」を哲学する
⑬ なぜ、人によって幸福の基準は違うのか?
⑭ 人間は孤独に耐えられないのか?
⑮ 人間はどうやって死を受け入れるか?
⑯ 神は存在するか?
⑰ 人間とはなにか?
一つ一つのテーマの対話内容は、要点を押さえた簡潔なものになっているので、対立点もはっきりして分かりやすい。実際は、このようなコンパクトな対話になることはないと思うが、その雰囲気は伝わってくる。そして何よりも、対面している参加者同士がつながるというメリットがよく分かる。本書を読みながら、私は前回の記事に綴ったような「哲学カフェ」=「哲学対話」をやってみたいという思いがさらに強くなった。もう少し、他の参考になる本を読んで学習してから、実際の「具体的な開催要項」を年末年始の休みを活用して策定してみようかな…。