私が「哲学対話」に興味をもつきっかけになった『考えるとはどういうことか―0歳から100歳までの哲学入門―』(梶谷真司著)の中で、著者が一番参考になった文献として『伝わる・揺さぶる!文章を書く』(山田ズーニー著)を紹介していたので、2週間ほど前に近所の書店で購入した。その時は読み掛けの本が数冊あり、本書を読む余裕がなかったが、最近やっと読み終えることができたので、ここ数日間で目を通すことができた。
そこで今回は、著者が理論編として書いている「機能する文章」の7つの要件の思考法について私なりに整理するとともに、それに対する若干の所感を付け加えてみたい。
まず、「機能する文章」についての説明をしておく。著者によると、「機能する文章」とは「状況に応じて目的を果たすためにきちんと機能する、生きていくための必需品のような文章」のことで、「生活機能文」とも「コミュニケーション文」とも言える文章である。別の言い方をすれば、「自分が言いたいことをはっきりさせ、その根拠を示して、読み手の納得・共感を得る文章」のことである。
次に、このような「機能する文章」を書くために何を考えていけばよいのか、著者は自分が必要だと考える次の7つの要件を挙げている。
① 意見…あなたが一番言いたいことは何か?
② 望む結果…だれが、どうなることを目指すのか?
③ 論点…あなたの問題意識はどこに向かっているのか?
④ 読み手…読み手はどんな人か?
⑤ 自分の立場…相手から見たとき、自分はどんな立場にいるのか?
⑥ 論拠…相手が納得する根拠があるか?
⑦ 根本思想…あなたの根本にある思いは何か?
この中で、実際に文章を書く上で基本となるのは、「③ 論点」「⑥ 根拠」「① 意見」の3要素であり、文章の中で最も重要なのは「① 意見」である。
では、これら7つの要件をどう考えて書けばよいのか、その思考法についてできるだけ簡潔に整理してみよう。
【① 意見】
・ 文章の核になる「意見」とは、自分が考えてきた問いに対して、自分が出した答えである。
・ 「問い→答え→問い→答え…」を繰り返すことで、考えは先に進む。
・ 問いは、時間軸・空間軸へと広げるとよい。
【② 望む結果】
・ あらかじめ「何のために書くか?」という結果をイメージすることが必要である。
・ 読み手に自分が書いた文章を読んでもらった後、どう言ってほしいか、その言葉で結果をイメージするとよい。
【③ 論点】
・ 「論点」とは、文章を貫く問いであり、筆者の問題意識と言ってもよい。
・ 自分と読み手の問題関心から外れない「論点」を設定することが必要である。
・ テーマと「論点」とは違う。
・ 「論点と意見」は、「問いと答え」の関係にある。
・ 「論点」を決める方法は、次の3段階の作業を行うとよい。
(1) 「論点の候補を洗い出す」…「論点」の候補を探すべき3つのエリアである「相手」「テーマ」「自分」を洗い出し、自分なりにメモを取る。このメモが「論点」の芽になる。
(2) 「複数の候補から絞り込む」…メモをいくつかのグループに分け、疑問文の形にする。
(3) 「最終的に論点を決める」…「切実な動機」「読み手の要求」「自分の力量」「社会的価値」という点から考察して決める。
【④ 読み手】【⑤ 自分の立場】
・ 自分と読み手の関係性に応じて書き分ける。相手との関係性をつかむためには、相手のことを理解する。理解する方法は、想像力を働かせる・調べる・直接相手に聞くという方法がある。
・ 相手との関係は、こっちの「つもり」ではなく、相手から見たときの、あなたとの距離、関係性を基準にする。
・ 他者の感覚を知ることで、関係性の中での自分の立場がよく見えてくる。
【⑥ 論拠】
・ 文章の説得力は、「論拠」から生まれる。
・ 「論拠」の用意、入門編は、次の5つのポイントである。
(1) 自分側の理由を洗い出す。
(2) 相手側にとってのメリットを挙げてみる。
(3) 相手の反対理由を正確に押さえる。
(4) 相手の反対理由に焦点を合わせ、説得材料を見たり聞いたり、足を運んで調べる。
(5) 相手に分かるよう筋道を立てて論拠を提示する。
・ 説得力を高めるために、問題を多角的に見て視野を広げた上で、自分自身の意見を出す。
・ 「論拠」は、次のような順次で配列するとよい。
(1) 優先順位の低いもの→高い物へ
(2) 具体的な根拠→抽象度の高いものへ
(3) 時間的配列(問題の背景→現在→未来)
(4) ミクロからマクロへ(個人の実感→社会問題→社会構造へ)
(5) 賛否(賛成、反対の代表的意見の提示→両者の共通・差異点→そこから見える問題点)
【⑦ 根本思想】
・ その人の生き方・価値観である「根本思想」は、文章にごまかしようもなく立ち現れる。
・ 文章を要約すれば、自他の「根本思想」が分かる。
・ 読み手の心が動くのは、自分の「根本思想」を偽らないように、腑に落ちるまで自分の生き方にあった言葉を探し、言葉を発見して書いた文章である。
以上、本書に書かれている「機能する文章」の7つの要件の思考法について私なりに整理してまとめてみた。本書の後半には実践編を位置付けており、実際の「機能する文章」例が掲載されているので、より説得力がある。未読の方は、私からも本書を推薦したい。
私は当記事を書きながら、昨年、地元の市立大学看護学部看護学科の学生に対して行った「役に立つ読解力を身に付けよう」というテーマの講義内容を振り返っていた。特に全10回の講義の中の2時間ほどを使って指導した「意見文(小論文)の書き方」について。私は4部構成(問題提起→意見提示→展開→結論)の「型」の指導に力点を置いたが、やや形式的な指導に陥っていたと反省している。もっと「論点」「論拠」という要件の思考法についても触れておけば、より指導の効果が上がったと思う。事前の教材研究として本書を読んで学習をしておけばよかったなあと、今更ながらに自分の不勉強を悔いた。今後、「機能する文章」に関する内容を取り上げる際には、本書で学んだことを十分に活かしていきたい。