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2020年「教育改革」の課題とは?~池上彰・佐藤優著『教育激変―2020年、大学入試と学習指導要領大改革のゆくえ―』を読んで~

 教職38年間のほとんどが小学校勤務だった元教員の私としては、新学習指導要領の全面実施が本年4月から始まる小学校教育における「教育改革」のゆくえについて何かと気になるところである。つい先日も、いつものように市内の古書店へ行った際に、書棚に並んでいた『教育激変―2020年、大学入試と学習指導要領大改革のゆくえ―』(池上彰佐藤優著)という新書に目が止まり、早速購入して読んでみた。本書は、昨年4月に初版が発行されたものであるが、内容的には『中央公論』2018年7・8月号、19年2月号に掲載した記事に、紙面の都合上、掲載できなかった箇所を大幅に加え、全体を再構成したものである。ジャーナリストの池上氏と作家で元外務省主任分析官の佐藤氏の対談内容が中心になっており、巻末には大学入試センター理事長の山本廣基氏を招いた鼎談内容を加えて構成している。

 

   本書の中で池上・佐藤の両氏は、当ブログの記事で以前に取り上げた「大学入学共通テスト」の国語の記述式問題について、その趣旨や問題形式等について概ね賛成の考えを表明している。特に池上氏は「改革をやろうとする側がいろいろな声に押されて、おかしな揺り戻しが起きなければいいのだけれど、というのが少し心配ではあります。」と語り、今回の「大学入試改革」に対して全面的に賛同している。それに対して、佐藤氏は英語の試験に「話す、書く」を加えた点やそれに受験産業が関わってくる点について、一部の受験生が極めて有利になると指摘し、入学試験の公平性について冷静に疑問を呈している。これは、文科省が「英語の民間試験」や「国語や数学の記述式問題」の導入の延期を決定した今回の事態を予測したもので、先見の明があったと言える。

 

 それにしても池上氏は、「今度の大学入試改革には、特に高校や中学の現場に対するメッセージが込められていることを、しっかり認識すべきだ」とか「メッセージを出す側は、怯まずその姿勢を貫徹してほしい。受ける側も、それを真摯に受け止め、やるべきことを考えてほしい」とかと語り、文科省の施策の全面擁護者に徹している。確かに、今回の「教育改革」の内容、特に新学習指導要領の柱である「主体的・対話的で深い学び」(当初喧伝されたアクティブ・ラーニングのこと)を実現するための授業改善や「カリキュラム・マネージメント」の実施に伴う学校教育の改善・充実等については、その設定の背景や趣旨等を踏まえると、私も基本的には賛成する。ただし、池上氏が語っている「教える側に相当に高い適応能力が求められること」や佐藤氏が語っている「アクティブ・ラーニングについていけなかった人たちに対する富の再配分の仕組み」等は、今後の大きな課題として残っている。また、大学入試改革の具現化を図った「大学入学共通テスト」の在り方については、大学入試がもっている役割や機能等についてもっと考量すべきだったと私は思う。そう考えると、池上氏のスタンスはやや文部行政側に偏り過ぎているのではないだろうか。

 

 最後に、本表題の趣旨からはずれるかもしれないが、本書を読んで私が改めてその問題点を自覚したことについて触れたい。それは、「公教育における宗教教育の必要性」である。同志社大学の神学部を出て、現在はそこの客員教授として「宗教」の授業を担当している佐藤氏は、2018年に起きた「地下鉄サリン事件」をはじめとしたオウム真理教が起こした一連の事件の背景や原因等が徹底的に解明されなかったことに触れつつ、「宗教」に対する無知がいかに危険なのかについて大きく警鐘を鳴らしている。そして、「さまざまな宗教の成り立ちや特性に加えて、ここまでいくと猛毒になる、ということを教えないといけない。」と前置きして、「必要なのは、神学的、教学的アプローチで、例えばキリスト教カルバン派の人からは、世界はこう見えているといった視点なんですよ。どちらかというと、精神病理学とか心理学とかに隣接するカテゴリーと言ったらいいでしょうか。」と具体的な「宗教教育」の内容にまで言及しているのである。さらに、「今回の学習指導要領で道徳が教科になるという議論をした時にも指摘しましたが、宗教科の授業がある学校は、あらためて教えなくてもいいことになっています。宗教教育に、道徳教育の要素が入っているからにほかなりません。」と語り、「宗教教育」は「道徳教育」を包含している点についても触れている。

 

 私は佐藤氏の上述のような指摘に対して、自分の「宗教」に関する無知さ加減を痛感した。今回の「教育改革」の内容の1つのポイントでもある「道徳の教科化」の趣旨やその教育実践の在り方等について研究する上でも、「宗教」に対する認識をしっかり深める必要があると自覚した次第である。幸い、自宅の書棚にはいずれ読みたいと購入していた「宗教」に関する『井沢元彦世界宗教講座』(井沢元彦著)『世界がわかる宗教社会学入門』(橋爪大三郎著)『池上彰の宗教がわかれば世界がみえる』(池上彰著)等が並んでおり、まずはこれらの本をこれからしっかり読み、「宗教」に関する基礎的な知識を身に付けたいと考えている。

 

    まだまだ教養が足りないなあ、まだまだ学ぶことは尽きないなあ…、と老いてますます向学心に燃える私である。