ようこそ!「もしもし雑学通信社」へ

「人生・生き方」「教育・子育て」「健康・スポーツ」などについて考え、雑学的な知識を参考にしながらエッセイ風に綴るblogです。

PCR検査法は絶対ではない!?~岩田健太郎著『新型コロナウイルスの真実』から学ぶ①~

 「日本は他国に比べて、新型コロナウイルスの検査数が少ないから感染者数も少ない。無症状の感染者がサイレント・キャリアになって無自覚に感染を広めているかもしれないので、PCR検査数をもっと増やしてそれらの人々を病院以外の宿泊施設等で隔離しないと、感染拡大を防止することはできない。」という主旨のことは、もう2か月前のワイドショーでも議論されていたが、やっと厚生労働省は最近になってPCR検査数を増やしていく体制を整える方向に転じてきた。なぜ日本は、最初に検査数を押さえるという対策を選んだのか。当初は陽性判定が出た患者は全て入院措置を取っていたので、おそらく病院に入院させる患者数を押さえて、医療崩壊が起きないようにしようとしたのであろう。しかし、感染経路不明の患者が増えて市中感染が広がり、それまでのクラスターを潰すという対策では限界が生じてきたので、やむなく方針転換を図ったのであろう。その点、遅きに失したとは言え、今までの対策よりは改善されてきたと思う。

 

 これからは、新型コロナウイルスに感染した症状が出た時にはすぐにPCR検査をしてもらい、陽性判定が出て軽症なら自宅や隔離施設等で療養、重症なら病院に入院しての治療というような対応をしてもらえるので、私たち国民の中に多少安心感が広がった。それはその通りなのだが、そもそもPCR検査というのは絶対的な信頼性が担保されているのだろうか。私は疑問に思った。

 

 そこで今回は、このPCR検査の信頼性に対する私の疑問を解決するために、先日、緊急出版された『新型コロナウイルスの真実』(岩田健太郎著)を読んで学んだことをなるべく簡潔にまとめてみたい。

 

 著者は、例のダイヤモンド・プリンセス号というクルーズ船にDMATの一員として入り、その感染管理ために船内の現場を把握し、あまりにも感染リスクが高い状況をSNSで発信して注目された方である。現在、神戸大学大学院医学研究科・微生物感染症学講座感染治療学講座教授であり、同大学都市安全研究センター教授でもある。今までにニューヨークで炭疽菌テロ、北京でSARS流行時、またアフリカではエボラ出血熱の臨床を経験している「感染症の専門家」である。私の書棚には、「患者中心の医療」の問題点を指摘した『「患者様」が医療を壊す』という本があるが、まだ読んでいなかった。それは、私が医者と患者が対等であることを基本とする「全人的医療」がこれからの医療の在り方だと認識していたので、買ってはみたものの読む気がしなかったからである。しかし、今回のダイヤモンド・プリンセス号に関連する言動をテレビやSNSなどで知って、著者の考え方に共感するところが多かったので、本書を読んでみようと思ったのである。

 

 本書の中で、まず著者は「PCR」の感度が6~7割程度しかないと言っている。感度とは、病気の人を100人集めたら何回PRCが陽性になるかということ。つまり、PCRが陰性でも、3割以上の新型コロナウイルスに感染している人を見逃しているということになる。私は、「えーっ、その程度の信頼性しかないの!?」と正直驚いた。では、PCR検査とは、そもそもどのような検査法なのだろうか。

 

 著者は次に、そのPCRの原理について解説している。PCRとはPolymerase Chain Reaction(ポリメラーゼ連鎖反応)の頭文字で、特定の遺伝子を捕まえて増殖させる技術。だから、対象がウイルスでなくても遺伝子さえ持っていればPCRに使うことができる。PCR検査では、新型コロナウイルスに特徴的な遺伝子の配列を探してきて、対になっている遺伝子を分離させ、ポリメラーゼという酵素の働きを利用して遺伝子を増殖させる。そして、見える形にしてあげて写真を撮り、ウイルスがいるかいないか判断するというのが、PCRの原理と言う。もう30年ほど前には確立していた、歴史の古い技術だそうである。

 

 ただし、このPCR検査にはいくつかの問題があるらしい。一番の問題は、遺伝子が拾えなかったら見つからないということ。その一つが、新型コロナウイルスの場合は一般に喉をこすってサンプリングするのだが、そこで拾えた遺伝子の量が足りない場合がある。ウイルスは人間の細胞の中にいるから、細胞の外に出ているウイルスの遺伝子を捕まえてやらないといけないが、感染していても細胞からなかなか外に出ずにサンプリングができないことがある。2つ目は、そもそも喉にウイルスがいない場合がある。これはウイルスが喉にいなくて肺の中に入ってしまうと、当然喉をこすっても捕まらないのである。

 

 というわけで、PCR検査では偽陰性、つまり体内にウイルスがいるんだけど検査で捕まらない場合がしばしば起きるらしい。だから、PCRで陰性でもウイルスがいないという証明にはならない。では、なぜPCR検査をする必要があるのか。それは、PCRが陽性の場合はウイルスがいるという証明になるから。偽陽性の問題はほとんど起こらない。したがって、PCR検査で分かるのは「新型コロナウイルスに罹っていること」であって、「罹っていない」ことは証明できないのである。

 

 以上、PCR検査の信頼性についてまとめてみた。そこで、私は次のようなことを改めて反省した。というのは、私たち素人は、昼間のワイドショーでMCやコメンテーターの言うことと解説者の説明とを混同し、それらの人々から提供される情報を等価にとらえ、時には確かさが不十分な情報を基に勝手な意見をもってしまう。だから、自戒を込めてあえて言えば、本書のようなその道の専門家による解説書も読んで情報のもつ妥当性を比較検討し、できるだけ正確な情報をもって「新型コロナウイルスとの闘い」に臨まないといけないのではないだろうか。