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誕生日のプレゼントの一つは本だった!~白石一文著『ほかならぬ人へ』の思い出から~

 二人の娘たちが幼い頃、私は自分なりの視点で選んで買った絵本を、妻と交互に寝る前によく読み聞かせていた。また、小学生になってから成人して独立するまでの誕生日には、私は娘たちにそれぞれの性格や特性等を考慮して選んだ本をプレゼントの一つとして贈っていた。元教員の私としては、我が子が本に親しみ、少しでも広い世界に目を向けたり自分の興味のある世界を深く見つめたりしてほしいという願いのもと、これらのことを行っていたのだが、果たしてその願いは実現したのであろうか。今、長女は小・中学校の音楽科を担当する教員になり、二女は調剤薬局に勤務する薬剤師になっている。このことは小・中・高校時代のほどほどの学業成績の結果ではあるが、多少は私の願いも加味されているのではないかと手前味噌的な感慨に耽っている。

 

 ところで、今、二人の娘たちは結婚して独立しているが、彼女たちに誕生日プレゼントとして贈った本のほとんどは我が家の収納スペースの棚の中にある。先日、それらの本を何気なく眺めていたら、ある本が私の眼に止まった。確か20代前半頃の二女へ贈った『ほかならぬ人へ』(白石一文著)である。なぜこの本が私の眼に止まったかというと、今年の9月末から11月にかけていつもの如く私と妻が気に入って視聴した、BSプレミアムで放映された上川隆也主演のヒューマン・ドラマ『一億円のさようなら』の原作者と同じ作者の作品だったからである。

 

   「えっ、白石一文氏の本を娘にプレゼントしていたんだ!でも、自分はまだ読んだことがなかったなあ。」と呟きながら本書をそっと棚の中から取り出した私は、自然と最初のページをめくっていた。10年ほど前に本書を読んだであろう二女は、その時にどんな感想を抱いたのか。私は二女の立場になって、読んでみたくなった。それから、これもいつもの如く就寝前と起床後のわずかの時間の読書対象の一冊として本書と付き合い、ついに今朝読了した。

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 そこで今回は、誕生日プレゼントの一つとして二女に本書を贈った当時の私の想いを絡めながら、20代前半頃の二女の立場で読んでみた私の所感を綴ってみたいと思う。

 

 本書の帯には、「第142回 直木賞受賞作 愛の本質に挑む純粋な恋愛小説 愛すべき真の相手は、どこにいるのだろう?」と記されている。関西の私立大学の薬学部を卒業し、地元の病院薬剤師として勤務していた20代前半の二女に、今から10数年ほど前、私は本書を誕生日プレゼントとして贈った。父親の私には本当のところは分からないが、当時の二女には付き合っている彼氏はいなかったと思う。しかし、私は二女に対して「いずれは結婚することになるだろうから、本当に愛する相手を見つけて結婚してほしい。」という想いで、帯に記された文言を見ただけで本書を選んだと思う。

 

 今回、私は初めて本書に所収されている「ほかならぬ人へ」という作品を読み、当時の二女はどのような感想をもったのだろうかと思った。この作品は主人公が男性であり、女性の二女は感情移入しづらかったのではないか。でも、きっとこの物語に込められた大事なメッセージは伝わったと信じたい。

 

    では、簡単に「ほかならぬ人へ」のあらすじを紹介しておこう。

 

    エリート家系出身の27歳の宇津木明生は、周囲の反対を押し切って美人のなずなと結婚する。しかし、そのなずなは過去に付き合っていた真一のことが気になって夜も寝られないと打ち明ける。明生が結婚後の真一との関係をなずなに問い質すと、なずなは逆上して家出してしまう。失意の明生は徐々に自暴自棄になっていくが、そんな彼の愚痴を親身に聴き、優しく語り掛ける女性が身近にいた。明生は、なずなとの結婚生活を清算し、その女性と共に生きることを決意する。しかし、その女性には思わぬ病魔が潜んでいた…。

 

 私は「ほかならぬ人へ」を読みながら、二女はきっと自分のことを気遣い心配してくれる人、そして外見ではなく本当に内面の豊かな人こそが愛すべき人なのだと思ってくれたにちがいないと確信めいたものを感じた。そして、そのような愛すべき人を見つけ、結婚することが幸せをつかむことになると思ってくれたのではないだろうか。(もちろんそれだけが幸せの必要条件ではないことを承知しているつもりだが…)私がなぜこのようなことを想像したかというと、その後、二女は飾り気のない誠実な人柄の男性と結婚したからである。そんな二女夫婦には来春、初めての子どもが授かる。おなかが大きくなった二女を気遣い、優しく労わってくれる夫の姿を目の当たりに見て、私は本書を誕生日プレゼントの一つとして二女に贈ったことへの返礼を見せられているような気がして、満更ではない気分なのであります。

 

 この正月には二女夫婦が我が家を訪れるという。果たして私が想像したとおりか、そっと彼女に尋ねてみようかな…。