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特別支援教育の視点から学級づくりを考える~松久眞実氏の講演を視聴して~

 先日、特別支援教育指導員の研修の一環として、全日本特別支援教育研究連盟・第26回中国・四国地区研究大会におけるオンラインセミナーの次のような講演を視聴した。

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 講師の松久氏は、現在、桃山学院教育大学の教育学部教育学科教授で、特別支援教育・学級経営・学校心理学・教師教育を専門としている方である。堺市立特別支援学校や同小学校教諭を経て、堺市教育委員会指導主事になり、その後プール学院大学で教鞭をとった後、現在に至っている。また、教員対象の「学級づくり」をテーマにした講演会で、休日も精力的に全国を駆け巡っており、その実践的で具体的なお話は大変有益だと多くの教員から好評を得ている。

 

 そこで今回は、教員はもちろん一般市民の方々にも「特別支援教育の視点から学級づくりを考える」ことについて知ってもらいたいと思い、松久氏の講演内容を紹介しようと思う。特に私の心に強く残った講演内容の概要をまとめるとともに、いつものように簡潔な所感を綴ってみたい。

 

 まず松久氏は、自分が過去に学級崩壊状態に陥ったクラスを担任していた頃の実態について触れ、教師としての自分の在り方を反省的に振り返っている。自分は「フレンドリーな教師で、子どもとの距離を縮めて仲良くなるのは得意だが、きちんと指導が行き届かないタイプ」だったと自己評価し、「教師がリーダーになっていない。そもそも子どもが“誉めてほしい教師”になっているか」と自問している。そして、ハリー・ウォン/ローズマリー・ウォン著『世界最高の学級経営―成果を上げる教師になるために―』から、自分の学級経営の問題点を暴き出し、次のような観点を取り上げている。

〇 クラスが組織化して安定していることが必要である。

〇 ブレない「一貫性」のあるルールが必要である。

〇 優れた教師に必要なのは、「学級経営」「授業力」「子どもへの前向きな期待」である。

〇 成果を上げる教師は、「イニシアティブ」を取り、怒鳴ったり威圧的に従わせようとしたりしない。

 

 また、学級崩壊状態における子どもたちの行動について、特別支援教育の視点からその原因を探っている。例えば、「黒板の文字を写さない」という行動は、もしかしたら「眼球運動のつまずきや視覚的短期記憶の困難」とか「手指の巧緻性や目と手の協応の問題」とかが原因かもしれない。また、「悪態をつく」という行動は、もしかしたら「多動性や実行機能のつまずき」が原因かもしれない。このようなことを考えた松久氏は、子どもたちが表出している言動で判断せず、彼らの本音や背景にある心理を理解しようとすることが大切であることを強く訴えている。そして、児童心理治療施設の宮田雄吾氏の「愛情だけを頼りとする人は、虐待された子どもの支援を仕事にしはならない!」という言葉を紹介している。

 

 次に、話題を本講演の中心的なテーマ「崩れない学級づくりのための三つのフェーズ」について展開していく。「学級経営の三つのフェーズ」とは、次の通りである。

① 「秩序フェーズ(始動期;ルールの確立)」…学級の土台や秩序を作る・崩れない学級経営

② 「育成フェーズ(展開期;児童生徒の参加)」…子ども同士のつながり・教師主導から子ども主導へ

③ 「成長フェーズ(発展期;自主性の育成や自治)」…子どもの能力を伸ばす・子どもの自主性に任す

これらのフェーズの根本には、全員の子どもが楽しく「わかる・できる」授業(焦点化・視覚化・共有化)を目指すために、特別支援教育の理念や視点を教科教育に導入することが求められているのである。ただし、「これらのフェーズの適用が学級の実態と違うと、かえって学級が荒れる原因になることもある」と釘をさしている。

 

 さらに、話題は「秩序フェーズ」と「育成フェーズ」における注意事項へと展開していく。最初に松久氏は「秩序フェーズの3本柱」として、次のような注意事項を挙げている。

① 一年間を通じてブレることなく叱る基準を明確にすること。…人の心と体を傷つけた時・できることをしない時・忘れ物や給食を残した時等のレベルを区別する。

② 子どもを興奮させないように、教室の刺激を減らすこと。…教室前の掲示物を減らしたり、ロッカーにカーテンを掛けたりして、「視覚的刺激」を減らす。机や椅子の脚にテニスボールをはめるなどして、「聴覚的刺激」を減らす。また、「静寂の時間」を導入する。さらに、教師の言葉を減らす。

③ 中間層を味方に付け、誉めながら支援の必要な子どもを巻き込むこと。…学級は「優等生」「中間層」「逸脱層」に分かれている。授業を楽しそうに演技しながら進めていくと、「中間層」を味方に付けることができる。本当に優しい先生ほど「秩序」を優先する。「温かさ」と「甘やかし」の混同や、「思いやり」と「馴れ合い」の履き違いはダメ。

 

 二番目に、「育成フェードでは」として、次のような注意事項を挙げている。

〇 逸脱層の集団よりも、もっと魅力的な学級集団をつくること。…中間層の子どもにとって逸脱層の子どもは魅力的に映る。だから、多数の中間層を各種の行事や係活動等で活躍させることが大切である。

また、学級の中で「善い行い」を増やす手立てとして、次のような工夫があると示している。

① ソーシャル・スキル・トレーニング(SST)…学級集団に対して指導すると効果的。特別な支援を必要とする子どもに対して周りで文句を言う子どもの「心の器」を広げることになる。

② 子ども一人一人に対する毎日の声掛け…朝の挨拶、個人作業(机間指導)、「らくらく日記」(子どもに3行か3分程度、日記を書かせ、終わりの会後に教師が目を通してサインし、一声掛けて握手するという取組)、連絡帳に「聞いてサイン」(教室移動や休み時間、一人でいる時に、そっと声を掛けるという取組)など。

③ 好意に満ちたクラスづくり…クラス独自の合言葉・励ましパワーワード・好意に満ちた語り掛けなど。

④ 気がラクになるセリフ…深呼吸・おまじない・ことわざカルタなど。

 

 以上、松久氏の講演「研修シリーズ」の中の「学級づくりの神髄」と「学級づくりの3つのフェーズ」を再構成した講演内容の概要をまとめてみた。「学級づくり」の前提として、限局性学習症(LD)や注意欠陥・多動症ADHD)、自閉スペクトラム症(ASD)等の発達障害のある子どもたちが通常学級に在籍していることを想定している内容だったので、まさに「特別支援教育の視点に立った学級経営論」とも言える内容であった。私にとっては現職で学級担任をしていた頃に拝聴しておれば、発達障害のある子どもたちにもっと配慮した学級経営ができていたかもしれないと、反省しきりの時間になった。

 

 私は今回オンラインセミナーで視聴したので、約2時間17分間の講演だったとは言え、実際は二日間で時には場面を止めてメモを取ったり、疲れてきたら少し休憩を入れたりするなどして、余裕をもって研修することができた。そのお陰で視聴後は、頭の中の記憶が意外と整理されていたので、スッキリした気分であった。今回、本記事をまとめたことによって、さらに確かな記憶として残ったので、今後の教員との教育相談の際には、必要な場面で今回学んだ講演内容を生かしていきたいと考えている。