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改めて「ボッチャ」の魅力について語る!~東京パラリンピック2020「ボッチャ」個人の脳性麻痺BC2の決勝戦を振り返りながら~

 先週末、教育相談業務として市内の小規模校を訪問した際に、小学3・4年生の合同体育でパラスポーツの「ボッチャ」に似たゲーム大会をしていた。ジャックボール(目標にする球)や個々のマイボール(投げる球)は、新聞紙を丸めてプラスチックの買い物袋に詰めて外側を色テープで巻きつけた手作りボール。授業の前半、手作りボールを使った多様な動きや、相手の足元を狙って転がす動きに子どもたちは意欲的に挑戦していた。後半になると、体育館を二分して2チーム対抗のゲームを行った。1チーム6人で4チームを編成し、対戦チームを替えて2試合を実施していた。1エンドだけ戦うどの試合も、ゲーム展開は「ボッチャ」らしい状況変化が起きて、参観していた私にとっても結構面白かった。

 

 授業者が体育科の授業に「ボッチャ」というパラスポーツを教材化して取り入れたのは、きっと先日閉幕した東京パラリンピック2020において、日本人選手が活躍した様子をテレビで観てヒントを得たからであろう。私はとてもよい試みだと思った。その理由の一つは、子どもたちの中には知的かつ身体的な面で特別な配慮が必要な子がおり、その子が必要以上にハンディを意識せずに取り組むことができる教材になっているからである。また、「パラスポーツを通じて障害のある人々にとってインクルーシブな社会を創出すること」というパラリンピックの究極の目標を実現する一助になるからであり、それは特別支援教育の目的とも合致するものだからである。実は、私も東京パラリンピックにおける様々な種目の中で一番夢中になって応援したのが、杉村英孝選手が金メダルを獲得した「ボッチャ」個人の脳性麻痺BC2の決勝戦であった。

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 そこで今回は、まず当時(令和3年9月2日付け)の地元新聞社の関連記事を頼りにして、静岡県出身の杉村選手の経歴について簡単に触れ、次に決勝戦の様子を振り返りながら、改めて「ボッチャ」の魅力について綴ってみたいと思う。

 

 「ボッチャ」種目で日本人初の金メダルを獲得した杉村選手が初めてこの種目を知ったのは、試合映像を観た特別支援学校高等部3年の時だったそうである。脳性麻痺は障害の程度に幅があるが、彼は立てず、寝返りも満足に打てないほど重い症状がある。それでもスポーツが好きで「激しい動きが必要ないので気軽に取り組める」と始めたらしい。そして、狙い通りに球を投げられた時の喜びに魅了され、正確無比な投球を追い求めたと言う。その後、精進し続けて2012年のロンドン・パラリンピックに初出場したが、満足できる成績を残すことができなかった。しかし、その反省に基づいて手足に麻痺がある選手として革新的な筋トレに挑戦した。難しい寝返り動作や両腕の上下運動を繰り返して体幹を鍛え、投球時にぶれない体を作った。さらに、握力が弱く指先で球をつまむような握り方で投げる彼は、投球練習の反復で体に動きを覚えさせ、繊細な投球術を磨いたのである。

 

 決勝戦でも、彼のこの投球術が見事に生かされていた。それが象徴的に表れていたのは、4対0で迎えた第4エンドの1投目だった。先攻の彼は4分の持ち時間のうち約1分をかけて最初のボールを投げ、ジャックボールにぴたりと付けたのである。相手のワッチャラポンは序盤からミスが目立ち、この場面では大量得点で逆転するしか勝利する道はなったので、杉村選手の1投目に大いに焦られたと思う。彼の序盤の投球においても、繊細で正確無比な投球術は冴えていた。相手の投げたいコースを邪魔するような位置に正確に投球していた。全てのエンドにおいて、スパーショットを連発した圧勝だった。狙い通りに投球できた後に彼が「雄たけび」を上げた表情をテレビ画面で観て、私は彼の今までの研鑽の日々を想像した。胸の中が熱くなってきて、勝手に涙が頬を流れていた。

 

 私は以前、(公財)県スポーツ振興事業団に勤務していた時に、「ボッチャ」についての研修の中で実際にやったことがあり、なかなか思い通りに投球することができないことを体験していたので、杉村選手がほとんどミスなく投球している様子を観て、本当に感動した。また、「ボッチャ」というゲームは、各エンドで最後の6球目を投げて、相手の球よりジャックボールにいかに多くの球を近づけるかで得点を競うので、その過程で工夫した戦術を立てる思考力も必要である。そして、それを正確な投球術で実行に移せることができた時、大きな喜びを味わうことができる。さらに、このゲームは健常者と障害者が共に参加することもでき、「インクルーシブ」な社会を目指すパラスポーツを象徴する種目でもある。このような「ボッチャ」の魅力を多く人に知ってもらい、生涯スポーツとして取り組む種目の一つにしてほしいと、私は切に願っている。