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「境界知能」の範囲にいる子どもたちに特別な支援の手立てを!~宮口幸治著『ケーキの切れない非行少年たち』から学ぶ~

 特別支援教育・指導員の仕事を始めて、もう半年ほどが経つ。主たる仕事は、幼稚園や保育園、小・中学校等から市の教育委員会へ申請された、何らかの「困り感」をもつ子どもに対する効果的な支援内容及び方法、また適切な学びの場についての教育相談を行うことである。教育相談によって、対象児の担任の先生や保護者等が子どもの「困り感」を解消していく支援の手掛かりを得て、それを実践することで子ども自身が「困り感」を気にしなくなっていくかどうかによって真価が問われる仕事である。

 

    では、簡単にその一連の仕事の流れを見てみよう。まず、私たち指導員はペアになって、対象児が在籍する園や学校へ出掛けて活動や学習等の様子を参観させてもらい、対象児の具体的な行動観察をしたり、必要に応じてその子と直接面談をしたり、さらに担任の先生から必要な情報を得たりして、それらについての記録メモを取って帰る。次に、そのメモを整理しながら「受理簿」という報告書にまとめ、対象児の「困り感」や特性等を改めて明確にして、その原因や背景等を考察する。そして、対象児の「困り感」や特性等に合った支援内容及び方法、適切な学びの場について検討した上で、教育相談の基本方針を決める。最後に、対象児の担任の先生や保護者等と教育相談を行い、今後の望ましい支援の在り方や適切な学びの場について共通理解を図ることで締めくくる。これが一連の仕事の流れである。

 

 ところで、私がこの約半年間に出会った子どもたちがもつ何らかの「困り感」や特性等の多くは、おおよそ次のような特徴があった。

〇 感情のコントロールがうまくできず、すぐにカッとなって友達に手を出す。

〇 人とのコミュニケーションがうまくできず、トラブルを起こすことが多い。

〇 授業中に集中して学習することが苦手で、じっと座っておれない。

〇 指示や説明したことを理解するのが遅く、集団行動ができにくい。

〇 計算が苦手だったり、漢字がなかなか覚えられなかったりする。

〇 身体の使い方が不器用であったり、姿勢がすぐに崩れてしまったりする。

 

 他にも、吃音だったり病弱・虚弱体質だったりすることで特別に配慮を要する子どもたちもいた。しかし、対象児の多くは、通常の学級に在籍していて、担任の先生が特に配慮することもなく関わってきている中で、上記の特徴のような「困り感」が顕在化してきたのである。しかし、保護者は園や学校等から指摘されるまでは、我が子の「困り感」や特性等について特に心配していなかったので、医療機関や療育機関等を訪れてはいないのが現状である。これらの子どもの中には、もし医療機関や療育機関等で診てもらい発達検査や心理検査を受けていたら、いわゆる「境界知能」(明らかな知的障害ではないが、正常域を下回る境界域、およそIQ70~84)の範囲にいることが分かるのではないかと思われる。さらに、その中には「自閉スペクトラム症(ASD)」や「注意欠陥・多動性症候群(ADHD)」、「限局性学習障害(LD)」等の発達障害と診断される子もいるかもしれないが、そのほとんどは「知的には問題ありません。様子を見ましょう。」と言われて、何らかの特別支援を受ける機会を逃しているのである。

 

 診断名を確定することはともかく、対象児が「境界知能」の範囲にいるのかどうかを確かめることは大切なことである。というのは、このことで対象児の「困り感」の根本的な原因になると考えられる「認知機能(聞く、理解する、見る、想像する、判断するなどの力)の弱さ」に目を向けることができ、その効果的な支援内容として「認知機能強化」を取り上げることができるからである。私がこのように考えるようになったのは、最近ある本に出合ったからである。それは、今から2年ほど前に発刊され話題になった『ケーキの切れない非行少年たち』(宮口幸治著)である。

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 本書は、児童精神科医である著者が医療少年院での勤務で得た知見を踏まえて、非行少年たちの特徴やその更生方法、さらに非行少年を作らないための方策等に関する提案が示されている。その中で、非行少年に共通する次のような特徴が述べられているのだが、それらは前述したような私が出会うことが多い子どもたちの「困り感」や特性等とかなり重なっていることに驚く。

〇 「認知機能の弱さ」(見たり聞いたり想像するチカラが弱い。)

〇 「感情統制の弱さ」(感情をコントロールするのが苦手。すぐにキレる。)

〇 「融通の利かなさ」(何でも思いつきでやってしまう。予想外のことに弱い。)

〇 「不適切な自己評価」(自分の問題点が分からない。自信があり過ぎる、なさ過ぎる。)

〇 「対人スキルの乏しさ」(人とのコミュニケーションが苦手。)

〇 「身体的不器用さ」(力加減ができない。身体の使い方が不器用で姿勢が悪い。)

つまり、園や学校で何らかの「困り感」や特性等をもつ子どもたちに対して適切な支援を行うことができずそのまま見逃していたら、その子たちは非行化していく可能性が高いということである。

 

 著者は、本書の中でこのような「境界知能」の範囲にある子どもたちは小学校2年生頃からS0Sのサインを出していると思われるので、早期に発見して適切な支援を行うことが必要だと指摘している。そして、その支援内容の中でも全ての学習の基礎となる認知機能への支援、つまり「コグトレ」という認知機能強化トレーニングを系統的に行う支援が有効であると提案している。具体的には、認知機能を構成する5つの要素(記憶、言語理解、注意、知覚、推論・判断)に対応する、「覚える」「数える」「写す」「見つける」「想像する」の5つのトレーニングからなっている。また、教材はワークシートを利用し、紙と鉛筆を使って取り組むトレーニングである。私は、「コグトレ」に対して仕事柄とても興味・関心をもち、早速、4歳の初孫Hにも使用できる『もっとやさしい コグトレ―思考力や社会性の基礎を養う認知機能強化トレーニング―』(宮口幸治編、青山芳文・佐藤友紀著)を入手した。

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 まだ、内容を詳しく吟味していないが、冬休み中にHにゲーム感覚でやらせてみて、その有効性を確かめてみようと思う。もし私なりにその有効性を実感したら、今の仕事にも生かして、特に「境界知能」の範囲にいる子どもたちに対する特別な支援の手立てとして活用しようと構想している。また、有効性の検証結果と考察等については、後日のブログで報告したいと考えている。乞うご期待!