10月になって学級担任が変わったことがきっかけになり、授業中に多動性や衝動性が強く現れるようになり、自学級では対応できない状況になったので、一時的に隣のクラスに入って学校生活を送っているという児童に関する教育相談を、私が主になって担当することになった。いつものように、学校へ出掛けて対象児の授業中の行動観察をし、それに基づいて学級担任や特別支援教育コーディネーターなどの先生方との教育相談をして、それらを踏まえた上で対象児の保護者と教育相談をするという一連の流れで業務を遂行していった。その際の保護者との教育相談で、私自身がいろいろと心掛けたことを整理しておくことが必要だと思うようになった。その訳はこれからの教育相談にも生かされるし、他の指導員たちにとっても多少は参考になると考えたからである。
何らかの「困り感」をもつ子どもの学級担任や保護者に対して、私は基本的に対象児の行動観察や発達検査等に基づいてその子の性格や認知等の特性を掴み、それに応じた適切な支援内容や方法等を様々に検討し決定してから教育相談に当たっているが、それが単に一方通行による伝達的な面談にしてしまってはいけないと考えている。では、どのようなことに心掛けることが大切なのか。私なりの考えはおぼろげながら持っていたが、それを明確に自覚するきっかけになったのは、前回の記事で取り上げた『ケーキを切れない非行少年たち』(宮口幸治著)の続編になる『どうしても頑張れない人たち―ケーキの切れない非行少年たち2―』を読んだことが大きい。
そこで今回は、本書を読んで学んだことをまとめながら、私なりの「保護者との教育相談で心掛けていること」を明確に示したい。読者の皆さんにとっては身近にいるかもしれない「頑張ろうとしても、どうしても頑張れない人たち」を支援する人をさらに支援する際の参考になるのではないかと思う。ぜひそうなってほしいと願いつつ、以下、筆を進めたい。
本書の出版については、著者が前著を書いている最中から構想していたらしく、「境界知能」の範囲にいる人たちは、その後、どう生きて行けばいいのか、社会はどう支援していけばいいのかという観点で、次のような構成で書かれている。まず第1章を全体の概要を掴むための羅針盤のように位置付け、第2~8章では「どうしても頑張れない人たち」に対する支援内容や、その支援者に対する支援内容等について具体的な提案をしている。その中で、私が特に参考にしたのは、「第7章 支援する人を支援せよ」の内容である。次に、第7章から特に参考にしたことと私なりの視点から付け加えたことを箇条書きにし、私が「保護者との教育相談で心掛けていること」を整理して示しておこう。
〇 子どもを支援する上で一番の効果的な支援は、その子の保護者に“この子のために頑張ろう”と思ってもらうこと。
〇 保護者のために、場合によっては保護者自身の話を“じっと聞いてあげる”ことや“保護者の苦労を労う”などの保護者の頑張りをサポートすること。
〇 こちらからの一方的な話ではなく、保護者の思いや願いを聞きながら、双方向的な対話を通して今までの支援内容や方法等を改善したり、足らなかった支援内容を付け加えたりする提案になるようにすること。
〇 基本的に保護者のやり方を否定しないようにすること。
〇 無理に保護者を変えようとせず、子どもの成長を目標にして、家庭と学校が連携を図ってよりよい支援をしていくような方向で話し合うこと。
〇 保護者の行き詰まっている場合は、自分が ①戦う(子どもに負けないように強く叱る。誰かのせいにする。) ②逃げる(子どもの問題に気付かないふりをする。仕事などに没頭する。) ③固まる(子どもの言いなりになる。甘やかす。)のいずれかの状態になっていないかと気付いてもらうこと。
〇 保護者には子どもにとって、①自分の“困り感”について理解して支えてくれる「安心の土台」 ②目標にチャレンジしたい時に見守ってくれる「伴走者」になることが大切だと認識してもらうこと。
第7章の中で著者は、保護者が今までの自分のやり方を反省して変わったと思ったきっかけはどんな時だったかについて語ったことを、次のように紹介している。
(1) 保護者自身の体験が認められた時
(2) 信頼できる人が見つかった時
(3) 子どもに変化が見られた時
(4) 子どもにとっての自分の役割が分かった時
最初に触れた事例において、私は保護者との教育相談がせめて上記の(1)(2)(4)になってほしいと臨んだ結果、予想以上に保護者は前向きに受け止めてくれたので、大きな達成感と充実感を味わうことができた。このことによって、今の仕事がもつ“やりがい”を強く意識することができ、モチベーションが大いに上がった。今後も本書から学んだことを生かして、保護者との教育相談に臨んでいこうと改めて心に誓った次第である。