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「皮膚感覚」の敏感さと「姿勢保持」の弱さとの関連について知る!~長沼睦雄著『子どもの敏感さに困ったら読む本―児童精神科医が教えるHSCとの関わり方―』から学ぶ~

 新年になってあっという間に、新型コロナウイルスの感染が急拡大してきた。“第5波”が収束してしばらく感染者が少なくなっていたので、昨年は大事をとって控えていた年末年始の帰省や旅行をする人が増えて人流が活性化したことや、デルタ株よりも感染力が強くなっているオミクロン株が市中でも感染するようになったことなどが、その主な原因になっていると思われる。いずれはと覚悟はしていたが、とうとう感染爆発の“第6波”が襲来してきた!これは、今まで以上に感染予防対策を徹底しなくてはならない。改めて、私たち老夫婦も気を引き締め直しているところである。

 

 ところで、年始休暇が終えた翌日の1月4日(月)も年休にしていた私は、恒例になったウルトラセール(全品20%割引)最終日ということもあり、以前から気になっていた哲学書や新書等を購入しようと市内数件のブックオフを巡ってみた。残念ながら私が目を付けていた哲学書はなくなっていたが、新書1冊と今の仕事に関連した特別支援教育関係の単行本2冊を購入した。私は、その中でも特に関心を惹かれた『子どもの敏感さに困ったら読む本―児童精神科医が教えるHSCとの関わり方―』(長沼睦雄著)を早速読んでみた。

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 「HSC」とは、「Highly Sensitive Child(ハイリー・センシティブ・チャイルド)」の略名で、「生まれつきとても敏感な感覚、感受性を持った子ども」の意味である。元々は、アメリカの心理学者のエレイン・N・アーロン博士が、1996年に『The Highly Sensitive Person』という本を出版し大ベストセラーになったことで、日本でも2000年に『ささいなことにもすぐに「動揺」してしまうあなたへ』(冨田香里訳)というタイトルで翻訳出版されたことがきっかけ。それから「HSP」という言葉が知られるようになった。続いて、アーロン博士は2002年に『The Highly Sensitive Child』というタイトルで、とても敏感な子どもたちの特徴や育て方等を詳しく書いた本を出し、それが日本で2015年に『ひといちばい敏感な子』(明橋大二訳)というタイトルで出版されて、「HSC」という言葉の認知度が高まったのである。

 

 本書は、精神科医で十勝むつみのクリニック院長の著者が、感受性の強い敏感な子どもを育てているお母さんや先生方にとって、数々の悩みを吹き飛ばすヒントとなり、敏感過ぎる子どもたちの生きづらさを和らげる一助になることを願って上梓した本である。ただし、本書で取り上げる「HSP」や「HSC」は、病名でも診断名でもなく、医学的な概念としては認められていない。あくまで心理学的な、社会的なひとつのものの見方に過ぎないという位置付けである。したがって、精神医学の診断基準であるDSM-5(2013年に改訂された、米国精神医学会の精神疾患の診断・統計マニュアル)で示されている「神経発達症」(改訂前は「発達障害」)と同列に取り扱う概念にはまだなっていない。

 

 しかし、私は本書を読むことで、「HSC」の敏感さと神経発達症の「ASD」(自閉スペクトラム症)の感覚過敏とは、違いだけでなく重なる部分もあることが分かり、「HSC」は病気や障害という概念とは別物だと分かった。また、実際の臨床的な場面で感覚過敏のために「困り感」をもっている子どもに対して、どのように支援すればよいかを考える際には、「HSC」の特性を踏まえた手立てを参考にすることは有効なのではないかと思った。特に、「ASD」の特性の一つである「触覚過敏」は、「HSC」の特性の一つでもある「皮膚感覚」の敏感さと似ており、その原因のメカニズムに関連する「恐怖麻痺反射」という原始反射について知ることは、「ASD」の子どもに対する適切な支援内容を考えることに役立つものである。

 

 もう少し具体的に述べると、「ASD」の特性の一つに「対人関係の苦手さ」があるが、これは「触覚過敏」との関連があると言われている。皮膚は自分と他人とを隔てる境界の部分であり、神経と同じ外肺葉系なので反応が似ているので、「触覚過敏」の子は他人に対して不安や恐怖が強いのである。そして、この感覚や対人過敏性と共に姿勢保持の弱さなど「ASD」の子どもが示す状態像は、胎児が生き残るための大事な機能である「恐怖麻痺反射」という原始反射が出生後も生き残っていることが原因であるらしい。

 

 人間は胎生5週間の早い時期から、母体のストレスを感じて身体を固めて身を守る「恐怖麻痺反射」が起きる。痛みなどの物理的な刺激だけでなく、雰囲気などの精神的な刺激に対しても身体が固まる反応を起こすという。この反射が出生時までに統合されず、出生後も残存すると、触覚の原始系(防衛)から識別系(積極的な関わり)への発達が遅れ、危険を回避し防衛する肌の機能を最大化して対処するのである。このために、外側の肌にエネルギーを集中させるために「触覚過敏」になり、前庭感覚や固有受容感覚などの内部感覚を使うことが難しくなる。さらに、そのことによって深層筋(インナーマッスル)が弱くなり、低筋緊張になることで「姿勢保持」が弱くなるのである。

 

 したがって、身体をコントロールしたりバランスを取ったりすることができるような運動をすることにより、前庭感覚や固有受容感覚などの内部感覚が育ってくると、それに伴って「姿勢保持」が強くなり「触覚過敏」も薄くなってくるのである。私は本書を読んで、このような「皮膚感覚」の敏感さと「姿勢保持」の弱さとの関連について知ることができ、今までの教育相談で表層的にしか説明していなかった「姿勢の崩れ」に対する支援内容に関する身体発達的な根拠を得ることができた。今回の学びを今後の教育相談の場で生かしていこうと考えている。