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子どもは小さな科学者!~現代教養講座(放送県民大学)で学んだこと~

 9月4日(日)の午前中、私は本県の生涯学習センターが主催するコミュティ・カレッジを初めて受講した。なぜ受講してみようと思ったかというと、本講座のテーマが「小さな科学者としての子ども―幼児教育の再発見―」だったからである。特にサブテーマに即した内容に興味を惹かれた。私が地元の国立大学教育学部附属小学校に勤務していた頃に低学年を担任することが多く、そのために同じ敷地内にある附属幼稚園と連携して「幼年教育研究」を進めていたことがあり、一時は研究責任者を任されたこともあった。また、現在の仕事においても、保育園や幼稚園、小学校低学年の子どもたちと接することがよくあり、私は幼児教育に対してずっと課題意識をもち続けてきたので、本講座のテーマは魅力的だったのである。そこで今回は、本講座の内容の簡単な紹介と、その中でも私が特に興味・関心をもった内容の概要についてまとめてみたいと思う。

    講師の地元国立大学国際連携推進機構の副機構長・隅田学氏は、まずコロナ禍で気付いたこと、例えば、子どもだけでなく親やその他の多く人々が学校の役割を再認識したことや、オンライン学習による新たな学びの場を創造することができたこと、教育環境の格差がさらに子どもの学力差を広げてしまったことなどを挙げた。そして、遺伝子構造が99%程度同じだと言わるチンパンジーと人間の違いについて、具体的な実験内容を映像で紹介しながら、それらの本質的な相違点について説明された。その本質的な相違点とは、簡単に言えば「文化の継承」の有無、つまり「現世代が得ている知的財産を次世代へ教えるという営み=教育」を行うか否かということである。人間の社会的・文化的な発展は、教育という営みに支えられているのである。

 

 次に、科学教育を専門にしている隅田氏は、自身が主催している「キッズアカデミー」という教育実践例を三つ挙げて詳しく解説された。一つ目は、コロナ禍前の「幼年教育研究」で取り上げた<テントウムシの活動から広がる学び>について、二つ目は、オンラインで実践したウインタースクールでの<「音」を題材とした学び>について、三つ目は、同じくオンラインで実践したサマースクールでの<「人体」を題材とした学び>について。

 

 これらの教育実践例の中で特に私が興味・関心をもったのが、一つ目と二つ目だった。一つ目の実践事例は、私にとって思い出深い場所である地元国立大学教育学部附属幼稚園での事例だったこと、5歳の孫Hが昆虫好きであることなどが、興味・関心をもった主な要因になっている。また、二つ目の実践事例は、やはりHが音楽好きで「音」に対する感性が豊かであること、妻や長女(Hの母親)は音楽を専門的に学んだ経験をもっていることなどが、その主な要因になっている。どちらの実践事例の内容も、Hの祖父である私にとって興味深く、かつ日々のHとの関わり方を見直す上で役立つものであった。

 

 もう少し具体的な内容に触れてみよう。一つ目の実践事例は、少し気弱で大人しい年中の男児Aを中心とした、テントウムシの活動の展開についてであった。ある日、Aは先生の服の袖を摘みながら、園の隣にあるズッコケランド(草花が咲いている小山)へ出掛ける。Aはそこで友達がテントウムシを採っているのを見て、自分も採りたいとテントウムシを探し始める。しかし、その日も翌日もいくら探してもなかなか見つけることができなかったが、やっとのことでナナホシテントウムシを1匹見つけるのである。飛び上がって大喜びするA君の姿を、園の先生は初めて見たと語ったという。講師の隅田氏は、これだけ一つの活動に集中して当初の目的を達成する体験は、Aの成長にとって大きな意味があったのではないかと語った。私も同感であった。

 

 その後、Aはそのテントウムシを飼う活動を始める。飼育ケースの中に住み家と餌になる草とアブラムシを入れて、友達と一緒にテントウムシを観ることに夢中になる。その中で、テントウムシは飛ぶことや黄色の体液を出すこと、いろいろな種類がいること、ザリガニのように変態していくことなどに気付いていく。そして、自分が発見したことを友達と積極的に情報交換したり、皆と一緒に昆虫図鑑でテントウムシのことを詳しく調べたり、それらの活動によって得た知識を園の先生や保護者に興奮しながら話したりするようになる。あの気弱で大人しかったAが!

 

    しばらくこのような飼育・観察活動を続けたAは、ある日飼っていたナナホシテントウムシを逃がしてやる決心をする。A君は餌として捕まえていたアブラムシが可愛そうになり、元々いた自然の中に戻す方がいいのではないかと考えたのである。隅田氏は「どこの園でもあるような実践事例だが、このような活動によって様々な位相の学びを経験していることの意味や意義は大きい。科学教育の視点からも幼児期のこのような活動は不可欠なものである。」と締めくくられた。

 

 私の孫Hも昆虫好きで、よく一緒にセミやトンボ、チョウなどを採りに行く。でも、隅田氏のいうような科学教育の視点から適切なアドバイスをすることは、元教員であるにもかかわらず、今まであまり意識したことがなかった。一つ目の実践事例を聴きながら、Hが小さな科学者として自分なりの課題を追究していくような活動をさりげなく支援していく関わり方について、改めて自覚した私であった。

 

 二つ目の実践事例は、コロナ禍で対面の学びができなくなったので始めたオンラインで実践したサマースクールのキッズアカデミー<「音」を題材とした学び>であった。隅田氏は、「参加者宅へ事前に糸電話を作る材料を郵送し、当日までに作ってもらっておいた。」と語り始めた。材料の中には、糸だけでなく、ビニルテープや針金・細いゴムも入れておいたそうである。そして、当日はそれらで作った糸電話を、参加者の幼児(小学校低学年の子も含む)とその保護者に実際に使ってもらい、その結果を発表してもらったそうである。その際に、必ず「予想→結果→気付いたこと」という科学的な手順を踏んでもらうようにしたとのこと。

 

 私がこの実践事例の内容の中で特に興味・関心をもったのは、実験後に他にも調べてみたいことを発表してもらった子どもたちの内容であった。「次は、いろいろな形や材料のコップでやってみたい。」「糸の太さや長さを変えてやってみたい。」など、子どもたちの科学的に多様な発想に私は驚いた。こういう体験に基づいて、子どもたちは科学的な思考を広げたり深めたりするんだなあと、改めて子どもたちの豊かな学びの可能性を感じた。

 

 心に残った内容が、もう一つある。それは、隅田氏が私たち受講者に配ってくれた更紙を使って、ユーチューブの「紙でリズム」という動画を視聴しながら実際に体験したことである。まず、私たちは更紙を使って「音」を出す活動をした。各自で紙を叩く、振る、くしゃくしゃに丸める、破るなどの活動を自由にして様々な音を出した。その後、動画を視聴しながら、更紙を使って「音」を出しながら「南の島のハメハメハ大王」のリズム打ちをして楽しんだ。これが、とても面白かった。楽しかった。ピアノを習い始め、簡単なリズム打ちができるようになり、園で行う秋の演奏会で三つの小太鼓を担当することになったHにもやらせてみたい。また、小学校の音楽専科をしている長女にも紹介したいと、私は思ったのである。

 

 約2時間の講座だったが、本当に楽しく、学びの収穫の多い内容だった。心身の休養を保障する貴重な休日の午前中だったが、私は満足顔で帰りの車を気持ちよく走らせていた。いくつになっても常に学ぶ姿勢を持つ続けることは、自分の気持ちを明るくさせることになり、引いてはそれが他者の幸せにつながっていくのだと実感した次第である。