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久し振りに「シャーデンフロイデ」を投影する池井戸作品の痛快さを味わった!~池井戸潤著『半沢直樹~アルルカンと道化師』を読んで~

 以前に、『「恨み」という感情をコントロールするには?…』(2020.4.12付)という記事の中で、「正しい恨みの晴らし方」の一つに「シャーデンフロイデ」(他人の失敗や不幸を嬉しいと思う感情を表わすドイツ語)を活用する方法があると綴った。その際は、自分に沸き起こってきた「恨み」を晴らす方法としては誤魔化しだと否定的にとらえていたが、この感情を小説やドラマなどの創作エンターテイメントに投影していることに対しては、内心ではどちらかといえば肯定的な受け止め方をしていた。

 

 私は基本的に因果応報を信じており、悪いことをした人はその報いを受けるべきだと考えている。だから、「忠臣蔵」や「水戸黄門」、「大岡越前」等のような時代劇は好きだし、特に2013年に大ヒットしたTBSテレビの日曜劇場『半沢直樹』にハマったのは当然のことであった。父親を自殺に追い込んだ相手への「恨み」を原動力にして、一銀行員の半沢が理不尽のまかり通る腐敗した組織に風穴を開ける単純明快さに、私は「シャーデンフロイデ」を感じて日々のストレスを解消することができていた。主人公の銀行員を演じた堺雅人と、その直属の上司で憎き敵役を演じた香川照之との激闘場面を想起すると、今でも溜飲を下げる思いが蘇ってくる。

 

 元々、私は今から20年ほど前から池井戸潤氏の大ファンであった。最初に池井戸作品を読んだのは、第4回江戸川乱歩賞受賞作の『果つる底なき』であった。この作品も銀行の腐敗を内部から描いた現代ミステリーであり、男の誇りを最後まで捨てない主人公の銀行員の生き様に私は魅了されたのである。それ以来、ほとんどの作品を読んできて、2011年に『下町ロケット』で第145回直木賞を受賞した時には、自分のことのように嬉しく思ったものである。また、『果つる底なき』『半沢直樹』『下町ロケット』だけでなく、テレビドラマ化された『空飛ぶタイヤ』『鉄の骨』『ルーズベルト・ゲーム』『花咲舞が黙っていない』『陸王』『ノーサイド・ゲーム』等を視聴することができたことも嬉しかった。

 

 そんな私が最近、本当に久し振りに池井戸作品を読んだ。それは、『半沢直樹アルルカンと道化師』である。はなまるうどんで昼食を取った帰りに市立中央図書館へ立ち寄った時、たまたま本棚に並んでいた本書を見つけて借り出したのである。そして、いつもの如く就寝前後の読書タイムに読み継ぎ、つい先日読了したのである。

 

    そこで今回は、その私の気分を少しでも伝えたくて、ネタバレにならない程度の本作品のあらすじと読後所感をなるべく簡潔に綴ってみたい。

 本作品の舞台は、シリーズ第1作目の『オレたちバブル入行期』以前の時期に遡った、東京中央銀行大阪西支店である。そこで融資課長を務める半沢直樹に、ある美術系出版社のM&A(会社買収案件)が持ち込まれる。ターゲットになっている仙波工藝社は出版不況に苦しめられてはいるが、会社の売却に至るほど経営はひっ迫していない。また買い手は半沢にも知らされておらず、不自然に良い買収条件も相まって、半沢は大阪営業本部からの指示を受けて浅野支店長がごり押ししてくる今回のM&A事案に疑念を抱く。

 

 半沢が仙波工藝社社長の仙波友之と協力してこのM&Aの裏を探るうちに、『アルルカンとピエロ』というモチーフを描き一世を風靡した天才画家「仁科譲」の作品が深く関わっていることが明らかになっていく。半沢は、『アルルカンとピエロ』の誕生の謎を解き明かし、大手IT企業のジャッカルが今回のM&Aを仕掛けてきた理由を探る中で、半沢の宿敵である大阪営業本部・業務統括部長の宝田信介の裏に隠された思惑に気付いていく。果たして宿敵との対決を経て、M&A事案はどのような顛末を迎えるのか…。

 

 ついつい筆が滑って、ネタバレ寸前のあらすじになってしまった。本作品は現代アートのポップなタッチが世界的に高い評価を受けた絵画『アルルカンとピエロ』が誕生した秘密を探るミステリー仕立てになっているので、それが経済界の金融事情に絡んだ銀行内部の腐敗を暴き出す「勧善懲悪」の展開という本筋への絶妙な味付けになっていて、物語の面白さを倍増しているのである。「今までの半沢直樹シリーズとは一味違う味わいを賞味させてもらったなあ。」と、読後に私が呟いた所以である。

 

 それにしても、半沢の人生観が「基本は性善説」だったとは…。でも、性善説であるからこそ、それを裏切るようなあくどい行為、特にバンカーとしての使命感を逆なでする銀行や顧客への背信行為に対して絶対に許せないという気持ちが強いのであろう。「やられたら、倍返しだ」という半沢の行動原理は、著者自身の人生観に基づいた「勧善懲悪」の世界を支える「シャーデンフロイデ」を投影することになるので、池井戸作品は読後に大きな爽快感や痛快感を味わわせてくれるのである。本作品もそうであったように…。