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様々な刺激を受けた初参加の読書会!~『読書会入門―人が本で交わる場所―』に触発されて~

 随分前になるが、『読書会入門―人が本で交わる場所―』(山本多津也著)を読み、著者が「読書会に慣れ親しむことで、同じでなくてはならない、同じ言葉しか使えないといった強烈な同調圧力も軽減されるのではないか」という理由で読書会を学校の授業に取り入れてほしいと提案していた箇所に共感を覚えたことがあった。つまり、同じ一冊の本を読んでも、10人いれば10通りの読み方があることに気付くことができ、人間の本来の多様性を実感することができる場が、読書会である。

 私は、機会があれば読書会に参加してみたいと思っていたが、コロナ禍を理由に断念していた。ところが、今月初旬に新型コロナウイルス感染症法上、2類相当から5類へ移行され、マスクの着用も個人の判断に委ねられるようになったことを契機にして、市街地の商業ビル5階のレンタルルームで先日開催された読書会(紹介型)に初めて参加してみた。そこで今回の記事は、その読書会の様子と私なりの所感を綴ってみたい。

 

 開始時刻の午前9時半の10分ほど前に会場に到着したが、室内は照明もなく、薄暗い。まだ誰も来ていない様子。普通、会場のセッティングなどのために主催者は少し早めに来るのでは…。私は、少し不安になった。場所はここに間違いない。私は、誰かが来るまで階段を降りながら、ビル内を探検してみることにした。4階、3階と降りていく途中に、上の階から何か物音が聞こえてきた。慌てて階段を逆戻り。会場に照明が点いていて、人影が一つ動いている。

 

 「読書会の会場は、ここで間違いないですか。」私は、今来たばかりのような態を装って、マスクをした30代くらいの男性にさりげなく訊いた。「はい。そちらに靴を置いてください。」私はおもむろに言われたとおりに靴を脱いで靴箱へ入れ、室内に並べていた長机の前に置かれていた6脚のパイプ椅子の一つに腰掛けた。「初めて参加する者です。前々から参加したいと思っていたのですが。コロナ禍で見送っていました。今日はよろしくお願いします。」私は、敢えて名前を名乗らずに挨拶をした。「そうですか。私は今日の会の世話をする者です。こちらこそお願いします。」彼も簡単に応じた。

 

 しばらく、取り留めのない雑談をしていると、次に20代くらいの女性が入口に立っていた。「ここ、読書会の会場ですか。」不安そうな表情のまま小声で聞いてきた。「そうですよ。参加者ですか。」「初めて参加します。」彼女も初参加者だったので、私は「どの席でも座っていいそうですよ。」と声を掛けた。「私も今日が初参加です。よろしくお願いします。」「こちらこそ。」また、しばらく雑談をしていると、主催者がホワイトボードに今日のスケジュール「自己紹介⇒雑談⇒持参した本の紹介…」を書き始めた。時刻は開始時刻を数分過ぎていた。「お待たせして、済みません。まだ参加予定の人がいるので、もう少し待ってくれますか。」私たち初参加者は、静かに頷いた。

 

 そうこうする内に、50代くらいの男性が入ってきた。「遅れて済みません。」「まだ、もう一人、女性の方が参加する予定です。」と主催者が言い、スマホで何かを確認している様子。「申し訳ありません。参加予定の方から今日は欠席するとの連絡が入りましたので、少し遅れましたが読書会を始めさせていただきます。」

 

 初めに、主催者がニックネームや好きな本のジャンルなどについて自己紹介をした。残りの3名の参加者も、それに続いて自己紹介をし合った。各人のニックネームはその由来を添えて紹介してくれたが、私はすぐに忘れてしまった。どうも姓でないと、ニックネームは覚えにくい。だから、私は姓に倣った「亀ちゃん」というニックネームにして、好きな本のジャンルについては、「哲学や倫理学など、学術的な新書。推理小説や時代小説等。」と紹介した。主催者(以後はS)は「ミステリー小説等、現代小説一般。」、50代男性(以後はM)は「欧米文学が中心だが、政治的な分野の本も。」、20代女性(以後はW)は「短歌の本が好きで、現代小説も。」

 

 その後の雑談では、それぞれの好きな本のジャンルを選んだ理由等の話題になった。Sは「自分の絶対体験できないことを追体験できるから。」、Mは「大学で専攻したのが英文学だったから。」、Wは「現代短歌はとても共感しやすいから。」、私は「大学の頃にいろいろな悩みを解決しようと試みた時に、哲学や倫理学等の学問に救われたから。」と話した。他の3名は「哲学」という名を聞いただけで、「難しい学問」という印象を受けて近寄りがたいと言った。私は、必死で竹田青嗣氏や西研氏、苫野一徳氏等の著書を何冊か紹介し、「現象学」の思考方法等について解説した。3名とも少し興味をもってくれたようだった。

 いよいよ、持参した本の紹介になった。Sは『恋文の技術』(森見登美彦著)『少女は卒業しない』(朝井リヨウ著)『探偵はぼっちじゃない』(坪田侑也著)の3冊の本のあらすじと自分が興味を抱いた点について紹介された。次に、私はこの1か月ほどの間に読んだ『勉強の哲学―来るべきバカのために―』(千葉雅也著)『目的への抵抗―シリーズ哲学講話―』(國分功一郎著)『医療ケアを問いなおす―患者をトータルにみることの現象学―』の3冊について、著者の主張点について要約的に紹介した。Wは、本当は短歌の本を紹介したかったけど、まだその本が自宅に配達されていないので、自分が特に気に入っている『コンビニ人間』(村田沙耶香著)のあらすじと共感した点について紹介された。Mは、最近デジタル書籍で読んだ『シニア右翼―日本の中高年はなぜ右翼化するのか―』(古谷経衡著)の著者の主張点について紹介された。

 

 その後、それぞれが紹介した本をなぜ選んだのかとか、好きな本のジャンルに関する話題とか、小説の作品が映像化された時の受け止め方とか、さまざまな内容について雑談的に話し合った。この雑談が意外と盛り上がって、気が付くと時計の針はもう終了時刻の12時半近くになっていた。Sから「この会場は12時半から次の予約が入っているので、残念ですが予定より少し前で終わりたいと思います。次回は来月になると思いますが、またご参加ください。」と締めのあいさつがあったので、私たちは少し物足りない気分を抱えながら会場を後にした。

 

 今回、私は読書会初参加だったが、本の紹介はもちろんだが、それぞれの読書体験に関する話題で盛り上がった雑談の時間が楽しかった。人はそれぞれの人生の歩みの中で、さまざまな本と出合っていて、その読書体験によって人生の新たな意味を紡ぎ出している。今回の読書会は、そのことを改めて実感できた場になった。次回もできれば参加してみたいなと思った。