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子育てや教育は子どもの成長には関係ない!?…私はそうは思わない!!

   私たちは普段「子どもの成長には、親による子育てや教育の在り方が大きく影響してい る。」と思っている。ところが、この一般常識を否定するように「子育てや教育は子どもの成長には関係ない!」と主張している新書『言ってはいけない~残酷すぎる真実~』(橘玲著)を私は近くの書店で見つけた。本書のこの主張は、子育て中の親から非難を浴びるのは間違いないであろう。しかし、本書の第3章の表題はまさしくそう書かれている。

 

 では、そのエビデンスは何に依拠しているのであろうか?著者の橘氏は、アメリカの在野の心理学者ジュディス・リッチ・ハリスが1998年に著した『子育ての大誤解』(早川書房刊)で提唱した〈集団社会化論〉に依拠して、「子どもの人格や能力・才能の形成に子育てはほとんど関係ない」と結論付けている。

 

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  そこで、以下において著者が引用しているハリスの〈集団社会化論〉の概要を説明した上で、それに対する私なりの所感を最後に簡単にまとめてみたい。

 

 子どもの性格や能力を決めるのは「氏(遺伝)が半分、育ち(環境)が半分」ということで昔からお茶を濁してきた。しかし、今まで行動遺伝学は一貫して、知能や性格・精神疾患等の〈こころ〉に遺伝が強く影響していることを示してきた。また、知能や性格に共有環境(家庭環境=子育て)の影響がほとんど見られないことも示してきた。例えば、論理的推論能力やIQ・音楽・美術・数学・スポーツ・知識等の才能において共有環境の寄与度はゼロなのである。また、人格を幾つかのカテゴリーに分類して遺伝と環境の影響を調べた結果を見ても、遺伝率は35~50%程度で、残りは全て“非共有環境”(家庭以外の環境)で説明できるらしい。つまり、行動遺伝学は「わたしは、遺伝と“非共有環境”によって〈わたし〉になる。」と主張しているのである。

 

 それに対して、ハリスはこれらの行動遺伝学の研究成果を踏まえて、「別々の家庭で育った一卵性双生児は、なぜ同じ家庭で育ったのと同様に知能や性格・精神疾患等の〈こころ〉はよく似ているのだろうか?」という疑問をもった。さらに、その疑問を発展させる形で「子どもの個性や能力は、共有環境ではなく、子どもの遺伝子と“非共有環境”の相互作用によってつくられていくと考えられるが、子どもの人間形成に決定的な影響を与える“非共有環境”とは何だろうか?」という研究テーマを見出したのである。そして、このテーマを追究する過程でハリスはアメリカの移民の子どもたちが流暢に英語を話すことに着目した。子どもは親から母語を学ぶ。その中で言語性知能の遺伝率は14%で、共有環境の影響が58%と非常に高い。にもかかわらず、移民一世の子どもたちは、ごく自然に英語を話すようになり、母語の読み書きを忘れてしまう。それはなぜか?…ハリスは、現代の進化論において定説とされている進化適応環境論によって、授乳期を終えた子どもにとって死活的に重要なのは、親との会話ではなく、自分の面倒を見てくれる年上の子どもたちとのコミュニケーションだと考えた。つまり、思春期を迎えるまでの子どもにとっては「友達の世界」が全てなのだから、「友達の世界」で生き抜くためには親の言葉である母語すら忘れてしまうのだと論理的に推論したのである。さらに、これらのことから「子どもの人格は、遺伝的な要素を土台として、友達関係という“非共有環境”の中でつくられていく」という結論を導いた。これがハリスの提唱する〈集団社会化論〉の概要である。

 

 さて、このハリスの〈集団社会化論〉は、親による子育てや教育の影響を否定するものなのだろうか?私はそうは思わない!!むしろ子どもが友達と関わる上で基盤となる心理的安定感を保障したり、子どもの友達関係に対する適切なアドバイスを行ったりするなどという親の子育てや教育の在り方が、子どもの成長に大きく影響するというエビデンスになるのではないだろうか!