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心温まるショート・ストーリーを楽しみつつ…~重松清著『季節風 冬』所収の「その年の初雪」に触れて~

 「その年は、記録的な暖冬だった。いつもの冬なら十二月早々に降るはずの初雪が、年が明けても降らなかった。…」

 

 まるで私の住む地域のこの冬を象徴しているような記述であるが、これは『季節風 冬』(重松清著)所収の短編小説「その年の初雪」の冒頭の一部である。本書は、普通の人々の小さくて大きな世界を季節ごとに描き出す、著者の「季節風」シリーズの「冬」物語。著者が得意とする、人間味溢れた心温まるショート・ストーリーが16篇収録されている。「その年の初雪」は、その中の一篇である。

 

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 私は就寝前に布団の中で読書をするのが習慣になっている。この習慣は、結果的には睡眠導入剤的な役割を果たしているので、時間的にはほんのわずかであるが、「愛読家」を自認している私にとっては、日常生活の中の楽しみの一つになっている。今、読んでいるのが本書。その中の「その年の初雪」が私の心に印象深く残ったので、今回は以下にそのショート・ストーリーの概要と所感をまとめてみたい。

 

 2年前の秋にこの町に引っ越してきた小学4年生の泰司は、3学期が終わると転校することになっている。転校して最初に仲良くなった三上くんが語った「かまくら」の自慢話を聞いて以来、泰司は何とかして「かまくら」を三上くんと一緒に作って遊びたかった。しかし、昨年は大した積雪がなく、また今年の冬も冒頭部分のような状況なので、その夢はまだ実現していない。泰司は積雪への期待を語る中で上述のような自分の思いを親友の三上くんに告げるが、三上くんは「かまくら」の自慢話は軽い冗談のつもりだったと呆気なく答えたので、二人はケンカになる。その日の下校時に、腹を立てたままの泰司に対して三上くんはあっさりと謝る。そして、二人は仲直りをしていつものようにじゃれあいながらの帰路、初雪が降り始める。三上くんは降ってくる雪を食べる遊びをして見せて、泰司を誘う。泰司は嬉しさの余り、つい転校話を口に出す。二人は別れの辛さを噛み締めながら、目を潤ませて口を開けたまま走り続ける。…

 

 小学生ぐらいの子どもの微妙に波打つ心情を描いたら、著者の右に出る作家は少ないのではないだろうか。私は小学校に勤務した経験がある元教員なので、今までに自分が接してきた子どもたちの姿と泰司や三上くんの姿は重なるところが多い。誰でも子どもという体験をして大人に成長するのであるが、実際に大人になると子ども当時の心情や気持ちを忘れがちになってしまう。著者が描く作品はそれを懐かしく思い出させてくれるとともに、大人になった今の心や気持ちの在り方を見直させてくれる。私たちは子どものままの素直な心性をもち続ける必要があると、老年になった私は感慨深く思うことがある。まだ子どもを主人公にした重松清作品に触れたことがない方がいるのなら、ぜひ一度は手にしてみてほしい。

 

 因みに、小中学生の子どもを主人公にした作品で私が今まで読んだ中でのお薦めは、坪内譲治文学賞受賞作品『ナイフ』、山本周五郎賞受賞作品『エイジ』、吉川英治文学賞受賞作品『十字架』、その他『きよしこ』『きみの友だち』『半パン・デイズ』『小学五年生』などである。

 

    私は、今年の節分を過ぎた頃には次の重松作品『季節風 春』を寝る前に読み、心温まるショート・ストーリーを楽しみつつ穏やかに入眠しようと、今からワクワクしている。