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健康の味を味わえる健康法?~南伸坊著『健康の味』を読んで~

     前回、当ブログ記事の「カテゴリーのバランス」や「文体や論調のあり方」について反省的な文章を綴った。そのこともあって、先日、久し振りに市立の中央図書館に立ち寄り、「健康・スポーツ」のカテゴリーに入りそうで、しかも「肩に力の入っていない柔らかい感じの文体や論調」の本はないかと探索してみた。すると、それらの条件に当てはまりそうな本を見つけた。それが今回紹介する『健康の味』(南伸坊著)である。

 

 私がなぜ本書に目を付けたかというと、著者の名前に見覚えがあり、その著書の文体や論調が肩肘の張らない、親しみやすいものであったことを懐かしく思い出したからである。もう35年ほど前になるが、南氏の著書『さる業界の人々』と出合った。私が地元国立大学教育学部附属小学校に勤務し始めて数年たった頃、私は自分の狭い人生観や価値観等を相対化すべく、今までの自分にとって異文化体験を味わわせてくれそうな本を物色しては読み漁っていた。そのような情況の中で、出合った本である。

 

    著者の南氏は、本年3月4日付けの記事で取り上げた椎名誠氏をはじめ末井昭氏や糸井重里氏、嵐山光三郎氏などと並んで「昭和軽薄体」の一員と見做され、当時は結構な人気を博していた。「路上観察学会」を提唱した芸術家の赤瀬川原平氏の弟子で、編集者・イラストレーター・エッセイスト・漫画家などの肩書きがあり、本の装幀も多数手掛けている。当時、勤務校から帰宅する途中にある郊外の書店で手に入れたと記憶している。その後、著者のファンを気取って、『シンボーの常識』『シンボーの大学ノート』『笑う写真』『対岸の家事』などの著書を買って読んだ。冗談っぽく語りながらも、奥行きのあるものの見方やとらえ方をさりげなく伝えてくれるような内容や文体、論調が私には新鮮だった。

 

 さて、本題は『健康の味』の方である。本書は、健康雑誌「壮快」に2005年1月から2006年12月の間に連載された「健康の味」というエッセイに、加筆・修正したものである。著者がちょうど肺ガンの疑いを掛けられて半年後の、その疑いがPET(陽電子放射断層撮影装置のことで、Positron Emission Tomographyの略)検査で晴れた後に、エッセイ執筆依頼を受けたそうである。そのような時期だったからか、最初の頃に掲載したエッセイは肺ガンの疑い事件の顚末記風の文章が多い。本来、深刻な体験であるにもかかわらず、著者は独自の肩肘の張らない文体や論調で事の顚末を綴っている。「このような文体や論調で当ブログの記事も綴れるといいなあ。」と、私には到底できもしない願望をつい呟いてしまった。

 

 ところで、本書の中には著者が日常生活に取り入れている様々な健康法なるものが紹介されている。その幾つかを挙げてみよう。

 

 まずは、「ねじり体操」。簡単に言えば、「ウエストをしぼって腹筋を鍛える体操」である。具体的には、例えば左足を腿上げしたと同時に、その左足の膝にくっつくくらいに、折り曲げた右腕の肘を寄せるというもの。この体操は、著者の場合「みるみるウエストがしぼられて体重が減る」らしい。しかし、この体操を始めて効果が現われてきた頃、例の肺がんかもとれないと医者から言われたので、ガンのために痩せていると疑われるかもしれないと思い「ヤメヤメ!」と即座に止めたそうである。もともと妻に「腹が出てる」と言われ、健康のために決意して始めたら効果てきめんだったが、止めてしまうと体重はまた除々に戻っていったと言う。ダイエット、特にウエストをしぼって痩せたいと思っている方には、いいかも…。さらに、この「ねじり体操」、実はキネシオロジーのエクササイズのブレイジム体操での正式名称は「交差足踏み」と言い、これをすると脳が活性化して、ボケ、物忘れを予防するらしい。認知症予防にも効果的かな?…。

 

 次に、「シキリ→シコ健康法」。簡単に言えば、「準備運動として蹲踞(そんきょ)から仕切りを何度も繰り返すというヒンズースクワットのような動作をした後に、シコを踏むという健康法」である。言い換えれば、大相撲の力士が土俵上で行う一連の動作のようなもの。なぜシコがいいのか。最近の研究で尿管結石を害のないうちに排出するのに効果的であるということが判明したらしい。シコを踏むと、尿管にへばりついた結石が流れ落ちたり、膀胱にとどまっていて固まろう、団結しようとしていた結石がくずれたりするという作用がある。著者は以前に尿管結石で大いに痛めつけられた体験があり、一気に惹き付けられたと言う。著者は「シコには体の機能をゆり起すみたいな、理にかなった運動だというゆるぎなさがある。」と実感的な感想を述べている。この「シキリ→シコ健康法」のような動作、実は私たち夫婦はウォーキングをした後に行っている。今までは何となく股関節を柔らかくするためにやっていたが、今回初めて尿管結石の予防にも効果的だと知り、これからも続けていこうと改めて心に決めた次第である。

 

 最後に、著者が考える「健康の味」って、どんな味なのだろうか?本書の初めの方のエッセイの冒頭部分に、次のような文章群がある。

○ 健康の味とは、ありがた味のことである。健康の時に味わえず、健康の損なわれた時にはじめて味わえる。

○ 健康の味は喉越しの味かもしれない。喉元過ぎれば忘れてしまう。

○ 健康の味とは、生きている味わいかもしれない。

高齢者には身につまされる言葉である。しかし、著者が「あとがき」に書いているように若い人も「病気になる前に、今ムリしている人に、生活を変えるか、ガンバリすぎない生活をするっていう選択肢があることを知ってほしい」ものである。