2015年にイングランドで開催された第8回ラグビーワールドカップにおいて、日本代表が強豪国の南アフリカに逆転勝利するという奇跡を起こし、予選リーグで3勝するという歴史的快挙を成し遂げたのは、まだ記憶に新しい。あの時は日本国中、大変なラグビーブームが起き、プレースキックを蹴る前に独自のルーティンを行う五郎丸歩というフルバックの選手が一躍有名になるというフィーバーぶりだった。…早いもので、あれから4年が経とうとしている。いよいよ来年はアジア初のラグビーワールドカップが日本で開催される。今から楽しみである。
それにしても、前回大会において日本代表があそこまで飛躍した背景や要因等は、何だったのだろうか。
私は『変えることが難しいことを変える。』(岩淵健輔著)を読んで、それらの事柄や日本ラグビー界の実態や今後の課題等についてよく分かった。本書は、著者が「日本代表を世界と戦える集団にする」というミッションを達成するために、GMとして今までに取り組んできた紆余曲折・悪戦苦闘の戦いの過程を詳細に記述している。
では、彼はGMとしてどのようなことを考え、構想し、実行したのだろうか。その概略を紹介してみよう。
彼はまず手始めに、従来のラクビー界では実現させるのが不可能だとされてきた「(1)世界トップクラスのコーチングスタッフを招聘すること(2)代表強化を軸にした、新たな体制を築き上げること(3)世界の強豪国とのマッチメークを実現させること」という三つの改革プロジェクトに取り組んだ。
(1)に関しては、過去の実績や指導者としての幅広さ、世界だけでなく日本ラクビーにも精通していることという条件を満たす指導者としてエディー・ジョーンズをヘッドコーチに招聘することに成功した。そして、エディーは目指すべき方向性として持久力を武器に、攻撃的なスタイルに活路を見出す「ジャパン・ウェイ」というスローガンを掲げ、世界一ハードなトレーニングメニューを日本代表選手に科して実行した。このことが、歴史的快挙の主な要因であることは間違いない。
しかし、それだけではない。それは(2)に関することだ。彼はエディーと相談して、完全に代表の強化を中心とした体制を組み、クラブチームのように集中的にトレーニングを行った。それと同時に「個」の能力を根本的に上げていくことを目指し、最初から少数精鋭型の育成を行った。このことは従来の慣行を大きく変えるものであったが、彼は協会とトップリーグやクラブ及び大学チームとの「ウィン-ウィン」の関係を築き上げながら不可能を可能にした。この手腕は高く評価されてよいと私は思う。
それ以上に若きGMがその手腕を発揮したのは、(3)に関することだ。世界のラグビー界では、「ティア」(階層や段という意味の言葉で、各国代表のグループ分けする目安)によってマッチメークされている。「ティア1」はイングランド・スコットランド・ニュージーランド・南アフリカ・イタリアなど世界10の強豪国で、日本はサモア・グルジア・アメリカなどの12の中堅国と共に「ティア2」で、それ以外は「ティア3」。今までのラクビー界では、「ティア1」と「ティア2」の国がマッチメークすることでも至難の業なのである。そのような状況下、彼は海外との困難な交渉をあきらめずに継続し、結果として成功するのである。「変えることが難しいことを変えなければ、未来は絶対に変わらない!!」という信念を貫き通したのである。
これら三つの改革プログラム以外にも、「代表チームのメンタリティーを変えること」や「代表の強化を継続的に図っていくメカニズムを作ること」「財政を健全化して、収益を生み出す構造に変えること」等に彼はチャレンジしている。その姿に日本ラグビーを本当に愛する者の熱い思いを感じ、私は心が激しく震えた。