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読解の秘訣としての「解釈学的循環」という概念について~山口尚著『難しい本を読むためには』から学ぶ~

 2023年元日。昼前に長女たち家族3人、昼過ぎに二女たち家族3人が、我が家へ年賀の挨拶に来てくれた。皆で華やかなお節料理を囲みながら、成長著しい孫たちの話を酒の肴にして愉快な時間を過ごした。食後は、娘たち夫婦と孫Hは任天堂スイッチ・スポーツのゴルフで盛り上がっていたので、私は孫Mを抱っこして近所の散歩を楽しんだ。つい2週間前にも二女とMがお泊りをしたので、Mはもうすっかり我が家や近所の様子には慣れたのかリラックスした表情に満ちていた。久し振りに賑やかな元日になり、私たち夫婦にとって爽やかな新年のスタートを切ることができた。

 

 さて、私の新年最初の読書対象は、昨年最後の出勤日になった12月26日に職場近くのデパートに入っている紀伊国屋書店で購入し、大晦日から読み始めた『難しい本を読むためには』(山口尚著)であった。正月2日には妻の実家へ年賀の挨拶に行ったので、やっと暇な時間が取れた3日に読了することができた。本書は、何かを学び始めようとしている若者に向けて<難解な本や論文をどう読み解けばよいのか>を説明している本だが、私のように文章の読み方を初歩から確認したい高齢者にも参考になる本であった。また、具体的に取り上げられているのが私の知っている哲学者たち(例えば、池田晶子、千葉雅也、永井均野矢茂樹國分功一郎、古田徹也の各氏)の文章だったので、最後まで興味・関心を持続しながら読むことができた本であった。

 そこで今回は、まずは本書の全体構成について概観した上で、本書で紹介している読書の仕方の中で私が特に重要だと思った「解釈学的循環」という概念についてまとめてみようと考えている。

 

 まず、本書では難しい本を読むことに関する必勝法ではなく、文章の本意を明らかにすることへ向けて着実に一歩ずつ進むような「正攻法」を、次のような全体構成の中で語っている。

〇 第一章~第三章は「原理編」で、難解な文章を読み解く方法の原理を提示している。

〇 第四章~第七章は「方法編」で、実際の読書において頼ることのできるテクニックを紹介している。

〇 第八章~第九章は「実践編」で、具体的な読書会のやり方を説明している。

 

 次に、本書を読み通して、難解な本や論文を読み解く上で私が特に重要だと思った「解釈学的循環」という概念について。この考えは、「原理編」の中でも第三章の中で詳しく紹介されているので、その部分をなるべく簡潔にまとめてみよう。

〇 「解釈学」とは、全体と部分との間の循環構造に着目しながら、文献や人間や歴史や社会を理解する仕方を考察する学問である。

〇 19世紀にベックやシュライエルマッハ―らが文献の読み方を研究対象として初めて体系化した「解釈学」を、20世紀初頭にディルタイがそれを押し広げて人間や社会や歴史の世界を研究対象とする「解釈学」へ発展させた。

〇 「解釈学的循環」という概念は、人間や社会や歴史を理解しようとする際の<全体と部分の間の循環>を意味している。つまり、部分の意味を決定するには全体の意味のつながりを想定しないといけないが、全体の意味のつながりをつかむには部分の意味を抑えておく必要があり、この堂々巡りのことを指している。

〇 読書の文脈で使う「解釈学的循環」という意味は、「全体の言いたいことは何か」と「各部分の役割は何か」とを同時並行的に行ったり来たりしながら考え、一歩ずつ読み進めていくことを意味している。

 

 本書の第一章と第二章では、難しい本を読む方法のふたつの側面が説明されている。第一章では、文章の理解のためには、文章全体の主張を表現している「キーセンテンス」を見つける必要があること。第二章では、「キーセンテンス」を探し出すためには、文章を眺め渡した上で、文章全体の主張を捉える必要があること。そして第三章では、それらのふたつの側面を「堂々巡り」「グルグル回り」することが、文章読解の秘訣の一部であることを指摘して、先の「解釈学的循環」という概念についての説明をしているのである。

 

 私は、この<いったんキーセンテンスらしい箇所を抑えた上で、文章全体を読み返し、キーセンテンスを捉え直す>という往復運動のような読書の仕方を、今までに無意識に行ってきていたと思う。ところが、本書で改めて「解釈学的循環」という概念を使って説明されていたことで、難しい本や論文を読解する方法としてしっかりと意識化することができた。今年は、今まで文章の難解さのために挫折していた哲学関係の積読本に再チャレンジしてみようと考えている。…これを年頭に当たっての私の抱負としたい!