ようこそ!「もしもし雑学通信社」へ

「人生・生き方」「教育・子育て」「健康・スポーツ」などについて考え、雑学的な知識を参考にしながらエッセイ風に綴るblogです。

「心療整形外科」で腰痛を治す!~谷川浩隆著『腰痛は歩いて治す―からだを動かしたくなる整形外科―』から学ぶ~

 先日、5回目の新型コロナウイルスのオミクロン株対応2価ワクチンを接種した。幸い副反応はほとんど出なかったので、いつも通り食後のウォーキングを妻と共にした。そもそも私がウォーキングを始めたきっかけは、55歳の時に受けた人間ドックの結果、中性脂肪やLDL(悪玉)コレステロールが高値になったために、「脂質異常症」と診断されたこと。その予防のための運動療法の一つとして始めたのである。それ以来、2度の「虚血性腸炎」による短期入院や「腰椎椎間板ヘルニア」による約2月間の療養生活等による何度かの中断はあったが、その度に再開して今まで続けてきた。現在は週4日程度、夕食後に1時間弱のウォーキングと約5分間のストレッチを実践している。

 

 しかし、約1年前に左脚の裏側と臀部に痛みとしびれを強く感じたので、以前にお世話になった整形外科を受診したら、「腰椎脊柱管狭窄症が原因だろう。酷い痛みが出るのなら、手術をすることも考えて。」と言われた。その時は「もうウォーキングを続けることは無理かな。」と断念しかけたことがある。というのも、ウォーキングをしている最中にも痛みとしびれが起きて、歩くのが辛いことが何度も起きたからである。そこで、私は医師から処方されたタリージェ錠(神経障害性疼痛治療剤)を服用して様子を見ることにした。すると、痛みやしびれが少し軽減してきたものの歩くのが怖かったが、またウォーキングを再開した。では、なぜウォーキングを再開しようと思ったのか。それは、以前に観たテレビの健康番組で「腰痛は動いて治す方がよい」と聞いたからである。確かに、ウォーキング再開後、それまで残っていた痛みやしびれをあまり感じなくなった。

 

 ただし、当時はウォーキングをすると痛みが治るという理由をはっきりと理解しているわけではなかった。そんな私に、その理由を教えてくれる本と最近出合った。『腰痛は歩いて治す―からだを動かしたくなる整形外科―』(谷川浩隆著)である。そこで今回は、本書の帯にも書いている「ウォーキングを始めたら、なぜ痛みが消えたのか」について、私が本書から学んだことをなるべく簡潔に紹介しようと思う。

 2005年に我が国で初めて「心療整形外科」という用語を提唱した著者は、腰痛や肩スこり、関節痛の原因はからだにあるが、ストレスや不安といった「こころ」が密接に関係しているのだから、このような心理的なことを踏まえながら痛みを治していくことが必要だと言い続けてきた。そして、その成果の一つとして、日本整形外科学会と日本腰痛学会から発表された『腰痛診療ガイドライン』に「認知行動療法は腰痛の治療に有用である」(2012年)や「認知行動療法は腰痛の慢性化予防に有用である」(2019年)と記載されたことを、本書で紹介している。

 

 認知行動療法とは、精神科や心療内科で行われている代表的な「メンタルな治療法」の一つである。簡単に言えば、患者さんの考え方(=認知)を修正することによって生活(=行動)を改善する治療法のことなのである。それまでの整形外科と言えば、「まずは薬や注射で治療する。それでも治らなければ最終手段は手術!」という外科の世界だったが、『腰痛診療ガイドライン』に「認知行動療法が有用」と明記されたことは驚天動地のできことであり、まさに地殻変動的転換だったようである。

 

 では、この「心療整形外科」における認知行動療法という治療法と、「腰痛は動いて治す方がよい」や「ウォーキングを始めたら、なぜ痛みが消えたのか」の理由とは、どのように関連しているのだろうか。

 

 そもそも腰痛の原因はよく分からないことが多いらしい。例えば、私が過去に患った「腰椎椎間板ヘルニア」という病気は、椎間板が神経を圧迫して坐骨神経痛を惹き起こし、足に強い痛みやしびれが出てくる。痛みやしびれが酷い場合は、腰にメスを入れて神経を圧迫している椎間板を取り除くという外科的な治療をする。しかし、手術で悪いところをきちんと治しても、術前の痛みやしびれが残ってしまう患者さんがどうしてもある程度の割合であるらしい。(私は当時このことを医師から聞いたので、手術をしないで痛みを抑える消炎鎮痛剤を服用しながら、ヘルニアの自然消滅を待つという治療方針に従って腰痛を治した!その経緯を知りたい読者は、当ブログの2019年1月分の記事を参照してほしい。)また、典型的な椎間板ヘルニアによる痛みがあるのに、MRI(磁気共鳴画像)を撮ってみるとなぜかヘルニアが全く見つからない、どんな検査をしてみてもいっこうに原因がみつからないという患者さんがいるという。

 

 これらの患者さんの多くは、「この腰痛はきっと一生治らないんだ。」とか「年だから死ぬまで痛いんだ。」と諦めて身体運動をしなくなってしまうので、いつまでも痛みやしびれは残ってしまう。しかし、腰痛のような運動器痛は動かした方が治るのである。そのメカニズムは、組織の血行をよくして筋肉や骨・関節が劣化するのを防止することが考えられる。また、「動かして治す」治療をすると、患者さんが積極性をもつようになり、気持ちの切り替えができるようになる。つまり、心理面の効果が出てくるのである。からだ(身体)とこころ(心理)は車の両輪で、どちらが原因でどちらかが結果ということではなく、「からだの病気がこころに影響し、こころの不調がからだに影響する悪循環を起こす」ということなのである。だから、腰痛によってふさぎ込むのではなく、認知行動療法によって現状をまず受け入れ、「痛みがあっても何とかなる!」と考え方を変えて、「とにかく歩いてみる」ことが治療の第一歩になるのである。

 

 このように「こころ」にうまくアプローチしてウォーキングをし始めると、患者さんに自然治癒力が生じて腰痛が改善されていくのである。本書には、このような実例がいくつも紹介されており、またその背景にある自律神経の働きや「病名」をつけることによる問題点、さらにマインドフルネス・ウォーキングのすすめなども記述されており、腰痛だけでなく肩こりや関節痛等の運動器痛に悩んでいる方々には大変参考になるので、ぜひご一読されることを薦めたい。私は自分の体験を踏まえて実感をもって言いたい。「心療整形外科」は、腰痛を治す!