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約20年前にチャレンジした「小学校教育の大改革!」の内容とは…(1)~地元の国立大学教育学部附属小学校の研究開発内容の概要~

   前回と前々回の記事で、苫野一徳氏が最近著した『「学校」をつくり直す』から学んだことをまとめた。その提案内容の概要についてはそれらの記事に目を通してほしいが、敢えて思い切って要約すれば、次のようなことになる。

 

 今までの学校教育のシステムは限界になっているので、これからの学校教育は「探究」(「学びのプロジェクト化」)を核としたカリキュラムを編成し、基礎学力を身に付ける学びについては「ゆるやかな協同性」に支えられた「個」の学びを保障するようなシステムに転換していくべきである。

 

 私は著者のこのような提案内容に対して基本的に賛同する立場から、学校現場の改革に期待を寄せる記事を書いた。それと言うのも、今から約20年前に私が地元の国立大学教育学部附属小学校に勤務していた時に、文部省(当時)から研究開発学校を委嘱されて取り組んだ研究の根底を支えた教育観や学習観等の基本的な考え方は、著者の提案内容と同様な視点に立っていたからである。当時、私は研究開発推進の責任者であり、その基本構想や研究方針等を提案する立場だったという経験があるので、本書を共感的に読み進めることができたのである。

 

 そこで今回は、今から約20年前にチャレンジした「小学校教育の大改革!」の内容概要を紹介したい。当時(平成9年3月)、文部省に提出した「研究開発実施報告書」等の内容は膨大なものなので、当ブログではその骨子について今回を含めて2回に分けて綴ってみたいと考えている。

 

 まず、私たちが育てたい学力と規定したのは、「よりよい自分を形成し、ともに生きようとする力」であり、それは「(環境や他者と)かかわり合う力」を中核とした「問題解決力」と「自己評価力」という下位学力が支えると構想した。そして、そのような学力を育てるためには、「ともに生きる〈場〉」を保障する柔軟で弾力的なカリキュラムを開発する必要があると考えた。「ともに生きる〈場〉」というのは、「子どもが環境や他者とかかわり合いながら、対自的・相対的な〈自己活動=自己評価〉をして、よりよい方向で経験や認識を再構造化するような情況」という一般的にはやや馴染みにくい表現をして定義付けをした。というのは、「ともに生きる〈場〉」の概念が本研究開発のキーコンセプトになるので、明確な概念規定をしておく必要があったからである。

 

 次に、私たちが大切にしようとした学びの経験は、子どもたちの関心・意欲に基づく活動や問題解決的な活動等を中核として、環境や他者とのかかわり合いを構想した単元(これを「活動単元」という)による学習、つまり子どもが課題意識をもって主体的・能動的に活動する授業の学びである。これは、知識や技能等の基礎的基本的な内容を到達目標として設定し、それを段階的に指導する過程を構成する単元(これを「内容単元」という)による勉強、つまりそれまでの学校教育における子どもが受け身で受ける授業の学びではない。そして、本研究開発において重点的に取り組んだ「活動単元」による学習は、基本的に子どもの現実的な課題意識に基づいた「総合的な学習」として構想したものであり、各教科等の学習内容を総合的・関連的に取り扱うプロジェクト型の学びだったのである。この点、苫野氏が提案している「探究型の学び」(学びのプロジェクト化)とほぼ同義なのである。

 

 したがって、当初は教科等の枠組みを一端取っ払って、全ての「内容単元」を「活動単元」に構想し直す研究作業を行った。もちろん今までの「総合的な学習」の実践成果を踏まえて、あくまで仮説としての「活動単元」を創造していったのである。そして、実際の週の時間割は教科等名で表示するのではなく、現在進行中で実践している「活動単元名」で表示していた。しかし、やはりカリキュラムを構成する緩やかな枠組みは必要なので、領域名としては従来の「教科等」ではなく、新しい枠組みとしての「学習領域」を作った。因みに、その名称は「たんけん・冒険の学習」「しらべ、調査・研究」「育ての学習」「創造の学習」「習いの学習」「運動の学習」「交流の学習」「働く学習」の8つであった。また、これら以外の主に学校行事に関連する活動は「みんなの時間」と称して、カリキュラムに位置付けた。一般の方々にはちょっと想像しにくいことかもしれないが、教育関係者であればこのチャレンジは「小学校教育の大改革!」と言っても言い過ぎではない取組だったのである。

 

 次回は、上述の「活動単元」による学習に対する評価をどのようにしたのか、通信簿はどのような内容や形式等にしたのかなどについて、少し詳しく報告してみたいと考えている。