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「新しい学力」のとらえ方とこれからの学校教育の在り方~斎藤孝著『新しい学力』を参考にして~

 ここ数回の記事では、本年4月から新学習指導要領が全面実施される小学校教育の具体的な取り組み例として、地元国立大学教育学部附属小学校の教育研究大会で公開された「体育科」や「道徳科」の授業を取り上げて、その実践内容の概要を紹介するとともに私なりの所感を綴ってきた。

 

 そこで今回は、4年ぐらい前に購入して読んだ『新しい学力』(斎藤孝著)を参考にしながら、新学習指導要領の内容を根底で支えている「新しい学力」のとらえ方や、これからの学校教育の在り方について整理しつつ、私なりに考えたことも付け加えてみたい。

 

 著者は「はじめに」の中で、「新しい学力」を「日常生活や仕事などにおいて、それぞれの人が出会う課題を解決するために必要な、思考力・表現力・判断力等を主とする学力」と概念化している。また、最終的に「主体的で対話的な深い学び」という表現に変わった「アクティブ・ラーニング」については、「活動的で積極的な意識をもって、他者と対話しながら自分の意見を形成していくタイプの学習方法」と説明している。さらに、これからの学校教育は問題解決型の「新しい学力」(狩猟的学力)と従来型の「伝統的学力」(農耕的学力)をよい形で融合した道を目指すべきだと結論的に述べている。このことは、「おわりに」においてもより強調した形で述べている。

 

 このような著者の結論内容は、私が以前に当ブログの記事で取り上げた『「学校」をつくり直す』(苫野一徳著)で述べられていた「探究的な学び」と「個別的で共同的な学び」のバランスを取ったカリキュラムによる学校教育の改革と、その趣旨は共通するのではないかと思う。これからの学校教育の在り方として、学校現場はこれらの主張に対してもっと真剣に検討する必要があるのではないだろうか。

 

 では、もう少し具体的な記述内容に目を転じてみよう。

 

    著者は第1章で、まず「新しい学力」登場の流れを概説しながら、従来の「伝統的な学力」育成では得られなかった「問題解決型学力」が学校教育の共通目的になったと述べている。次に、「PISA型」の学力を踏まえつつ、「新しい学力」を具現化している「問題解決能力」を「解決の方法が直ぐには分からない問題状況を理解し、問題解決のために、認知的プロセスに関わろうとする個人の能力であり、そこには建設的で思慮深い一市民として、個人の可能性を実現するためには、自ら進んで問題状況に関わろうとする意志も含まれる。」と説明し、それを育成する「国語科」や「理科」の授業例を具体的に示している。さらに、「アクティブ・ラーニング」(「主体的で対話的な深い学び」)の三つの視点について、次のように整理している。

① 「主体的な学び」…子どもたちが見通しをもって粘り強く取り組み、自らの学習活動を振り返って次につなげる学びの過程

② 「対話的な学び」…他者との協働や外界との相互作用を通じて、自らの考えを広げ深める学びの過程

③ 「深い学び」…習得・活用・探究という学習プロセスの中で、問題発見・解決を念頭に置いた学びの過程

 

 1990年前後から現在までの学習指導要領の改訂を中心とした教育界の動向を示しながら、「問題解決能力」を中核とした「新しい学力」が登場してきた経緯やその趣旨、内容等について分かりやすく整理されていて、私の頭はすっきりとした。特に「主体的で対話的な深い学び」の概念を、子どもが問題解決する学びの過程として重層的にとらえている点については、学ぶことが多かった。

 

 続いて第2章では、「新しい学力」の「落とし穴」、つまり様々な課題について言及している。特に教育実践上の難題として、大きく二つの課題を挙げている。その一つ目は、指導者の課題。「新しい学力」を伸ばす授業をするには、教師に高度な教育センスや指導の工夫が求められるが、果たして全ての教師がそのような資質・能力を持ち合わせているだろうか。教員養成や研修の在り方が問われる課題である。二つ目は、評価の課題。「新しい学力」の大きな要素である意欲、思考力、判断力等を評価する明確で客観的な評価基準の設定や、客観的でシンプルな評価方法の工夫等は、なかなか解決困難な課題である。これら以外にも、ICTの活用と学習の質に関する課題も提示されていて、大変参考になる。

 

    第3章では、社会において本当に求められているのは、「総合的な学力」であり、それは「右手で体系的な知識内容をつかみ、左手でも問題解決能力をつかみ、両手でしっかりと現実に対処していくような力」であると著者は主張している。そして、その学ぶ意欲を引き出すルートとして、一つ目(右手)は日本の伝統的な「型」を重視した教育による「できた!」が先行して意欲がわくルート、二つ目(左手)は子どもの興味・関心に基づく経験主義的教育による「面白い!」から意欲につながるルートの二つを示している。

 

    第4章では、「新しい学力」の源流とも言うべき歴史土の偉大な教育者を取り上げて、その思想や実践等の内容を紹介している。具体的に「ジャン=ジャック・ルソーの民主社会における主権者教育」「ジョン・デューイの経験主義教育」「吉田松陰松下村塾教育」が「新しい学力」につながる源流として取り上げられている。それに対して、「福沢諭吉実学教育」は「伝統的学力」につながる源流として取り上げられていて、その有効性を強調している。この例証は、「新しい学力」だけでは社会が求めている「総合的な学力」の必要・十分条件にはならないことを印象付けるものになっていると思う。

 

    最終の第5章では、真の「問題解決能力」を鍛えるために、「志の教育」「読書」「調べ学習」「新聞教育」「プレゼンテーション」「ディスカッション」などにおけるポイントを示している。また、「古典力の養成」や「知情意+体の総合力」の大切さについても力説している。子どもたちだけでなく、私たち大人にとっても生きていく上で、大変役立つ内容になっている。

 

 新学習指導要領の全面実施を目の前にしている小学校教育に携わる教師だけでなく、保護者をはじめとする一般社会人の方々にも本書は読まれるべきだと、私は強く思った。と言うのは、小学校教育から始まる2020年「教育改革」は、日本の公教育が進むべき道筋を決めることになるのだから、私たち日本人全体がしっかりと共通理解しておく必要があると考えるからである。多忙な日々を送り、しかも家庭に公教育を受ける子どもがいない社会人も多いので、なかなか本書を読み通すことが難しい方は、せめて当記事にでも目を通してほしいと願っている。だから、ここまで読み進めた方はぜひ友達や知人にも当ブログを紹介してほしい。

 

    最後は何か当ブログのPRになってしまったが、それはそれで私の本音の部分なので、読者の皆様方、ご協力よろしくお願いします。