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どうする?学校再開と教育改革の狭間でジレンマを抱える教師たち~石川一郎著『2020年からの教師問題』を手掛かりに~

 新型コロナウイルスの感染拡大を防止するために、2月下旬に安倍総理が「全国の小・中学校、高等学校、特別支援学校の一斉休校措置」を要請したことにより、各都道府県はその実情に合わせて各学校を3月上旬から休校することにした。それ以来、年度を跨いで基本的には休校措置が継続されていた学校は、5月中旬頃から感染者数の推移や医療体制の整備状況等に応じて「緊急事態宣言」が解除された県から分散登校を始め、その実施情況を踏まえて順次再開するようになってきた。本市の小・中学校でも、今週初めから本格的に再開され、私が地元小学校の近くを通った時、校内に子どもたちの姿を見かけるようになった。しかし、校内では新型コロナウイルスの感染を防止する様々な措置が講じられているために、子どもたちや教職員たちは不便な学校生活を余儀なくされているのではないかと思う。

 

 振り返ってみれば、入学式や始業式の日から学校再開の日までに授業できなかった日数は、約30日にもなった。この間、各学校では家庭学習の手引きに基づいて各教科等の課題を示したり、各市町の教育委員会が中心になってオンライン授業を提供したりして、自宅で過ごす子どもたちの学習習慣が崩れないような対応策を講じてきた。しかし、その成果は各家庭の実態によって大きな格差が生じる恐れもあったので、学校再開以後に改めて新年度のスタートを切らなければならない。各学校は休校中の授業日数に対応した各教科等の授業時数や学習内容等という“公教育の量と質”をこれから保障するために、カリキュラム実施上の様々な措置を工夫する必要がある。今こそ、各学校の特色を生かしたカリキュラム・マネージメントを行うことが求められる。校長の適切な指導の下、教頭や教務主任・各教科主任等がしっかりと連携を図って、カリキュラムの再編成に取り組み、子どもたちの学力保障のためにこの未曾有な緊急事態を乗り切ってほしいと願うばかりである。

 

 ところで、そもそも小学校は本年4月から新学習指導要領の全面実施が予定されていた。当ブログの以前の記事において、何度か私はこの「2020年教育改革」の主旨や内容及びその課題等について綴ってきていたので、読者の皆さんにはこのことは周知の事実ではないかと思う。しかし、未読の読者もいると思うので、簡単に要約して紹介すれば、次のような主旨や内容等になる。

○ 知識の「習得」から「活用」へと転換

○ 各教科の特性に応じた資質・能力を培い、「思考力・判断力・表現力」の育成を重視

○ 「主体的で対話的な深い学び」と「カリキュラム・マネージメント」の保障

○ 小学校教育に新たに「外国語科」「特別の教科 道徳」「プログラミング教育」等を導入

小学校教育における「2020年教育改革」は、本当に待ったなしの情況だったのである。そして、この教育改革の担い手である教師は、本年度から今までとは異なる役割を果たすことが求められていたのである。

 

 そこで今回は、私が最近読んだ『2020年からの教師問題』(石川一郎著)を手掛かりにしながら、学校再開と教育改革の狭間でジレンマを抱える特に小学校の教師たちはこの課題をどのように解決していけばよいか、どのような役割を果たしていかなければならないか、私なりの考えを提案してみたい。

 

 本書の中で著者は、「2020年の理想の教師像は、『プロジューサー』である」と強調している。そして、そのプロジューサーとしての在り方として、次の3つの要件をもって子どもたちの学びの場を総合的に演出することが大切であると言っている。

① マインドとして、「子どもとともに高め合う関係性」

② 教科の専門家として、「正解のない『問い』を出せる力」

③ 生き方として、「アクティブラーナー」

①のような関係性を構築するためには、教師と子ども、あるいは子ども同士の間で、互いの主張を尊重し合える安心を保証することが重要である。また、②のような力を持つためには、教師は自分を超えた発想が子どもから出てきた時に嫉妬するのではなく、楽しいと思うくらいの度量の広さが必要である。さらに、③のような生き方ができるようになるためには、教師が常に知識の根源的なものは何かを追究する姿勢、その知識が今後どのように実生活や実社会につながるのかを考える姿勢が大事なのである。このような著者の考え方は、38年間の教職生活において私自身が追い求めてきた教師像とも共通するものであり、基本的にその内容に賛成である。

 

 ところが、本年度になって新型コロナウイルスの感染拡大防止のために休校措置が講じられたので、上述のような教師の役割を果たすことなく時は過ぎ、今回の学校再開を迎えた。そして、これから休校中の授業日数に対応した各教科等の授業時数や学習内容等という“公教育の量と質”を保障しなくてはならない。しかも、教師たちは、例えば子どもたちの確かな言語活動や豊かなかかわり合いを制限するような、新型コロナウイルスの感染を防止する様々な措置を講じながら指導しなくてはならない情況にある。したがって、「2020年教育改革」を実施するための教師たちの役割は不十分なものにならざるを得ないであろう。

 

 そこで、私は学校再開後の基本的な小学校教育の在り方や教師の役割について、現実的に可能だと思われる次のような事項を提案したいと考える。

 

○ 必要最低限の授業時数を確保するために、子どもたちの心身の健康や安全を尊重しながら、夏季休業日や土曜休業日の一部を授業日に振り替えたり、始業前の朝の時間等を活用したモジュラー方式を採用したりする。

○ 各教科等の実質的な学習内容を保障するために、教科等によっては教材の精選を図ったり、指導の効率を高める合科的・関連的な指導を工夫したりする。

○ 各教科等の学習における知識の「習得」と「活用」のバランスを保障するために、単元を「個別型の学習」(正解に到達するためにスモール・ステップで構成する学習)と「探究型の学習」(正解のない「問い」を主体的に追究する学習)に構成して整理した上で、それに応じた単元時数のメリハリを付けて実践する。

○ 上記の2つの単元とも、教師支援の在り方は個別化して一対一の対話方式を原則とする。また、できれば教員数を増やして今より少人数学級にして授業ができるような体制を整える。

 

 以上、やや抽象的な提案事項になってしまったが、学校再開と教育改革の狭間でジレンマを抱える小学校の教師たちの今後の目安になれば嬉しい。とにかく今は、性急な「9月入学」の議論を進めるよりも、なるべく目の前の子どもたちに学習面での不利益が被らないような対応策を講じることに集中すべきである。