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「部活動」指導に係わる教員の「働き方改革」の現状及び今後の行方とは…~内田良著『ブラック部活動―子どもと先生の苦しみに向き合う―』から学ぶ~

   前回の記事は、「給特法」の下での公立学校の教員の「働き方改革」について綴った。その中で、2016年度に実施された文部科学省による「教員勤務実態調査」の結果に触れ、小中学校の1週間における時間外勤務の合計は平均約20時間にもなり、多くの教員が「給特法」制定当時に比べると約10倍の時間外勤務を強いられている、「過労死ライン」を越える違法な勤務が常態化していることを記した。では一体、教員はどのような業務内容に追われているのだろうか。実は、ここ10年間で小中学校の各種業務内容の中で特に突出して増加したものがある。それは、中学校の休日における「部活動」の指導である。したがって、教員の「働き方改革」において最優先事項になっているのは、この「部活動」指導に係わる勤務時間を縮減することなのである。

 

 そこで今回は、「部活動」指導に係わる教員の「働き方改革」の現状及び今後の行方について、『ブラック部活動―子どもと先生の苦しみに向き合う―』(内田良著)から学んだことを基にまとめるとともに、私なりの思いや考えを綴ってみたいと思う。

 

 まず、「部活動」の教育課程上の位置付けについて。改訂された中学校学習指導要領では「生徒の自主的、自発的な参加により行われる部活動については、スポーツや文化、科学等に親しませ、学習意欲の向上や責任感、連帯感の涵養等、学校教育が目指す資質・能力の育成に資するものであり、学校教育の一環として、教育課程との関連が図られるように留意すること。」と示されている。つまり、「部活動」は教育課程外における生徒の自主的、自発的な活動でありながらも、学校教育と密接な関係を有しながら行われる教育活動なのである。このことは、「部活動」が学校内で学校の教員という人材を使って提供されるグレーゾーンであることを表している。このような現状に対して、著者が問題視するのは、グレーゾーンであることがうやむやにされていることなのである。すなわち、グレーゾーンだからこそ、学校教育の一環であることを理由にして、生徒にも教員にも「強制」がはたらき、活動に対する管理が行き届かずに「過熱」が止まらない点が問題なのである。

 

 次に、その「部活動」指導に係わる教員の勤務実態について。2016年度のスポーツ庁による全国調査によると、中学校の実に87.5%が教員全員による指導体制がとられており、教員に「部活動」指導をするかしないかの選択の余地はほとんどないというのが実情である。(本県の中学校の実態もほぼ全国平均並み)そして、実質的に「部活動」の指導をするのは、その大部分が勤務時間を超えて行われている。公立学校の教員の時間外勤務は原則的にできないという法的根拠については、前回の記事において記したのでここでは省くが、要するに時間外勤務として行う「部活動」指導を校長が所属教員に強制すること、換言すれば職務として命令はできないものなのである。しかし、現実的には非常に多くの中学校教員は「部活動」の顧問となり、「過労死ライン」と言われるほどの長時間の時間外勤務を半ば強いられているのである。

 

 実はかく言う私も市内のある中学校の校長であった時、多くの所属教員に運動部及び文化部の顧問を引き受けるようにお願いしていた。それは、当該中学校は以前から生徒指導上の「教育困難校」であったこともあり、全ての教職員が「部活動」の非行防止効果という認識を共有していたこと。また、「部活動」の実績が生徒の進路指導上における評価対象になっていたことについて教育的意義を見出していたことなどによって、「部活動」顧問を引き受けることについては特に拒否的な態度を取る教員はほとんどいなかったからである。しかし、今思えば、そのことは多くの所属教員の長時間の時間外勤務を黙認するという、校長としては職務怠慢的な対応であったと懺悔する。「退職後にこのようなことを書くのは無責任だ!」との誹りは免れないが、本書を精読して認識をより深めた現在の正直な反省なのである。

 

 では、「部活動」指導に係わる教員の「働き方改革」の現状及び今後の行方は、どうなっているのであろうか。

 

 平成29年(2017年)12月26日に文部科学省より「学校における働き方改革に関する緊急対策」がまとめられ、「部活動」は学校の業務ではあるが、必ずしも教員が担う必要がないものに位置付けられた。また、その翌年3月19日にはスポーツ庁より「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」が策定され、運動部活動の在り方について抜本的な改革の必要性が明らかになった。さらに、それらを受けて同年6月には本県において「本県の運動部活動の在り方に関する方針」、7月には本市においても「本市立中学校の部活動の方針」が策定された。ここでは、「本市立中学校の部活動の方針」の中における教員の「働き方改革」に関する項目「適切な休養日等の設定」の記述内容を紹介しておく。

○ 学期中は、部活動ごとに週当たり2日以上の休養日を設けること。そのうち、平日は少なくとも1日、土曜日及び日曜日(以下、「週末」という。)は少なくとも1日以上を休養日とすること。

○ 週末に練習試合や大会参加等で休養日に活動した場合は、休養日を他の日に振り替えること。

○ 長期休業中の休養日の設定は、学期中に準じること。また、生徒が十分な休養日を取ることができるとともに、部活動意外にも多様な活動を行うことができるよう、ある程度長期の休養期間(オフシーズン)を設けること。

○ 定時退勤日及び夏季休業中の学校閉庁日には部活動を実施しないこと。

○ 1日の活動時間は、長くとも平日では2時間程度、学校の休業日(学期中の週末を含む)は3時間程度とし、できるだけ短時間に、合理的でかつ効率的・効果的な活動を行うこと。

○ 早朝練習は行わないこと。ただし、学校としての取組として体力つくり等を目的とした場合については、校長の承認の下で実施すること。

○ 中学校体育連盟が主催する大会(総合体育大会・新人体育大会)、または文化部の連盟等が主催するコンクールや大会前に上記の時間等を延長して活動する場合は、早くても1か月前からとし、校長の承認の下、生徒や顧問教員にとって過度な負担とならないよう配慮すること。なお、延長した活動分については、休養日に振り替え、十分な休養が確保できるように留意すること。

 

 これら以外にも、部活動指導員や外部指導者の各校への配置も次第に増えてきているので、従前に比べたら「部活動」指導に係わる教員の「働き方改革」は進んでいると思う。もちろん著者の描く未来展望図、例えば「居場所」の論理に基づく部活動改革や「部活動」の総量規制等の構想にはまだまだ及ばないものである。また、将来的には私が前々から主張している「部活動」指導のアウトソーシング、例えば「部活動」指導の主体を「総合型地域スポーツクラブ」をはじめとする「地域スポーツクラブ」に移譲することをより具現化すべきである。しかし、ともかくも「部活動」指導に係わる教員の長時間の時間外勤務が少しでも縮減する方向で、具体的な「働き方改革」が進み始めたことには大きな意義がある。今後も学校現場における改革内容が充実するとともに、行政的な施策が拡充することを心から念願し、今回はここらで筆を擱きたい。