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「哲学対話」の場の開き方について~土屋陽介著『僕らの世界を作りかえる哲学の授業』を参考にして~

 子年を迎えた年始の第2弾の記事も、やっぱり「哲学対話」に関するものになる。昨年末からの記事に目を通してくださっている読者の皆様からは、「もういい加減にして別のテーマにしてはどうか…」という非難めいた声が聞こえてきそうだが、そうはいかない。悪く言う必要もないのでよく言えば、私は追究心が旺盛というか、物事に粘り強く取り組むというか、そのような性格なのである。とにかく、昨年末に決意した本県教職員向けの「哲学対話」の開催に向けて、まだまだ知りたいことがある。もちろん全国各地で行われている「哲学対話」の主催者のホームページやブログなどにも目を通して、実際に行われたテーマや対話の様子などについても調べてみた。しかし、「愛読家」を自認している私は、暇があれば近くの書店を徘徊するという一種の病的な生活習慣が身に付いており、最近はその際に「哲学対話」に関する本をついつい物色してしまうのである。

 

 今回の記事で取り上げるのは、正月2日に近くのデパート7階にある書店の中を物色して購入した『僕らの世界を作りかえる哲学の授業』(土屋陽介著)という本である。新春恒例になっている東京箱根間大学駅伝競走のテレビ中継放送を観戦する傍ら、暇を見つけては本書に目を通してみた。大変学ぶことの多い本であった。また、これから「哲学対話」を開催しようと構想している私にとっては特に「第6章 すぐ実践できる!哲学対話の5ステップ」が大変参考になった。

 

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     そこで今回は、本書を読んで改めて学び直したことと、「哲学対話」の場の開き方についてまとめてみたい。

 

 まずは、著者と本書の内容について。著者の土屋氏は、2017年から開智日本橋学園中学・高等学校の独自の教科「哲学対話」の専門教員(教諭)として勤務し、開智国際大学教育学部の非常勤講師(「哲学」「倫理学」等の担当)もしている「子どもの哲学(Philosophy for Children)」の実践家かつ研究者である。また、NPO法人「こども哲学・おとな哲学 アーダコーダ」の理事でもある。本書は、著者が「哲学対話」に初めて出会ってから今までの約10年間に実践・研究してきた成果を、まだ「哲学対話」を知らない読者にもよく分かるように、世界各国及び日本各地に広がる「哲学対話」の様々な事例を紹介しながら、その根底を支える理論的な考え方を要領よくまとめたものである。

 

 次に、本書を読んで学び直したことについて。私は前々回の記事で「何事に取り組むにもモチベーションは外的要因よりも内的要因が大事」というようなことを書いたが、これは「楽しい」「面白い」という気持ちを尊重し活動自体を目的にすることの大切さを述べたものである。しかし、やや誤解を与える表現だったかもしれない。というのは、本書で著者は、「P4C」の創始者である哲学者・マシュー・リップマン氏が著した『探求の共同体』から引用して、単なるおしゃべりや会話は「それ自体を目的として行われるもの」であると述べている。これに対して、「哲学対話」にはみんなが目指すべき「目的」があり、対話がそこに向かっていく「方向感覚」が存在すると、リップマンの言葉を借りて述べている。つまり「哲学対話」とは、“真理”というゴールを目指して、参加者全員が協力しながら思考を深めていく共同作業なので、単なるおしゃべりや会話ではない。私は、このことを改めて確認し、「哲学対話」の本質について再認識した次第である。

 

 さらに、「哲学対話」の場の開き方について。私は今までの記事で「対話のファシリテーターの役割」や「対話を行う方法の“コツ”」などについてまとめてきたが、「哲学対話」の場の開き方やその手順、ポイントなどについては、まだ頭にきちんと整理できていない。そこで、本書に述べられている当該箇所の内容を整理して、以下にまとめておきたい。

 

【すぐ実践できる!哲学対話の5ステップ】

① 参加者同士が顔を見合える体勢で座る。…基本的には机を取り払って椅子だけでサークルを作り、全員が手ぶらで着席する。教室でサークルを作る時は、机を前後左右に寄せることがポイント。

② 思考の素材を全員でシェアする。…参加者の好奇心を刺激して、自発的で自由な思考を促す素材(絵本、映像資料、音楽・絵・彫刻のようなアート作品、童話、小説、詩等)を用いる。

③ みんなで考える「問い」を作る。…思考の素材に触発されて心の中に生まれたもやもやを、疑問文形式で吐き出して「問い」の形にする。まずは参加者からとにかくたくさん問いを出してもらい、次に「似たような問いを一つにまとめる」「より多くの人が考えやすいように、問いを修正する」「問いを出した人の違和感や不思議さがより精確に伝わるように、表現を精選させる」というやり方で整理する。

④ 「問い」をめぐって哲学対話をする。ファシリテーターが全体の司会をしながら、参加者全員で問いをめぐってゆっくり・じっくり考えを深めていく。その際にファシリテーターが気を付けることは、まず「参加者の誰よりも自身が問いの真理を知りたいと思って一生懸命考えること」、次に「全員がルールに従って安心して考えられる空間に身を置けるように努めること」、さらに「とにかく自身も考えることを楽しみ、対話しながら思考に集中する経験を繰り返すこと」である。

⑤ 対話の振り返りを行う。…「哲学対話」後に簡単な振り返りを行い、「今回はどういうところに考えづらさを感じたか」を参加者にフィードバックしてもらうことが、今後より上手に対話を進めることにつながる。

 

  最後に、著者は「哲学対話の場をひらくとは、いまここに“ゆっくり・じっくりと考えることを楽しむ場”を作り出すためには、どうすればいいかと、常に自らに問いかけて考え続けることです。」と述べている。これから本県の教職員を対象とした「哲学対話」を開催しようと構想し、まず自分が対話のファシリテーター役を担おうと考えている私にとって、上述の言葉はその基本的な姿勢を示してくれている。とにかく、なるべく早くこの構想に賛同してくれる仲間を募って、より具体的な運営方法等について集まった仲間とともに考えていきたい。さあ、行動開始だ!!