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「認知症」はなるのではなく、つくられるの?~村瀬孝生・東田勉共著『認知症をつくっているのは誰なのか―「よりあい」に学ぶ認知症を病気にしない暮らし―』から学ぶ~

 前回の記事を綴って以後、私は「認知症」や「介護」について関心が高まり、近くの書店に行くとそれらに関連する本をつい立ち読みしてしまう。そんなある日、馴染みの古書店の新書版が並んでいる書棚の中から、ある本の書名が私の目に飛び込んできた。『認知症をつくっているのは誰なのか―「よりあい」に学ぶ認知症を病気にしない暮らし―』(村瀬孝生・東田勉共著)である!「何々、認知症ってつくられるものなの?」その書名を読んで私が最初に感じた疑問である。私は早速、購入して読んでみた。「認知症」や「介護」について初めて認識したり改めて認識し直したりすることが多く、私のこれまでの知識や世間の常識みたいなものがひっくり返されたような気分になった。

 

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 そこで今回は、本書を読んで私が「認知症」や「介護」について初めて認識したり改めて認識し直したりしたことをまとめるとともに、それに対する私なりの所感を綴ってみようと思う。

 

    まず、本書の内容構成について簡単に紹介しておこう。本書は介護ライターの東田氏と、現在「特別養護老人ホームよりあいの森」施設長の村瀬氏との対談を編集したもので、認知症をつくっている主語ごとに章立てている。その主語に当たるものとは、「介護保険制度と言葉狩り」「あらゆる形の入院」「厚生労働省のキャンペーン」「医学会と製薬会社」「介護を知らない介護現場」「老人に自己決定させない家族」の六つである。そして、終章には理学療養士で「生活とリハビリ研究所」所長の三好春樹氏の特別寄稿文を掲載している。

 

 次に、私が「認知症」や「介護」について初めて認識したり改めて認識し直したりしたことについて、なるべく簡潔に要約してまとめてみよう。

 

○ 2000年以降、「認知症」の診断数が急激に増えたのは、要介護認定を受けて介護保険サービスを使うために、家族が診断をもらわざるを得なくなったから。また、その背景として家族や今の社会が「老いとは何か」という本質的なことを問わなくなり、「ぼけ」や「痴呆」という言葉を使わなくなってしまったことが関係している。

○ ほとんどの高齢者は、入院によって「認知症」を発症したり悪化させたりしてしまう。それらを防ぐためには、早く元の生活の場に戻していくしかない。しかし、医者や看護師が入院の恐さに無自覚の場合が多い。

○ 厚生労働省が2004年に、「ぼけ」や「痴呆」に替えて「認知症」という名称を付けて以降、この病名だけが一人歩きをして、記憶や見当識に障害を抱えた高齢者を「病人だから」と医療に押し付けた。このため、そのような高齢者でも普通の暮らしができるように支援していこうという、当たり前のことが忘れられてしまった。

○ 「認知症」には、中核症状(認知機能が障害されたことから出る症状。具体期には、記憶障害や見当識障害、実行機能障害等)と、周辺症状(かつて問題行動と呼ばれていた症状で、最近は「BPSD」と呼ばれている。具体的には徘徊、暴力、暴言、介護抵抗、失禁、不潔行為、食行動異常、昼夜逆転、幻覚、妄想、不穏、抑うつ等)があり、それぞれに薬がある。中核症状に対しては「抗認知症薬」、周辺症状に対しては「向精神薬抗精神病薬抗うつ薬精神安定剤睡眠薬等)」が使われるのが一般的である。しかし、「認知症」全体の3割、「BPSD」の8割は、「薬害性認知症」である。

○ 食事、排泄、入浴の三大介護がきちんとできていない介護現場が、利用者を「認知症」に追いやっている。

○ 今の自立支援の考え方は、高齢者に対して人の手を借りて新しく生きていく方向へ移行するのではなくて、薬と訓練で「自立しろ」って言い続けている感じがする。そのような考え方が蔓延した結果、家族が高齢者に対して自己決定させないようにしてしまい「認知症」をつくっている。

 

 以上の要約は、本書の第1章から第6章までの中で主張している内容の概要と重なるが、私のこれまでの「認知症」や「介護」についての知識や世間の常識みたいなものとは違ったものであった。「へーっ、そうだったのか!」「よかれと思っていたことが、逆に高齢者を追い詰めていたのか!」と、私は嘆息をもらしながら呟いていた。そして、これらの問題点を解決しつつ今まで運営してきた在老所「よりあい」の認知症ケアの基本方針や具体的な支援内容等は、「ぼけ」や「痴呆」が出てきた高齢者に対する最高の「介護」になっていると私は腑に落ちた。

 

 最後に、終章の三好氏の特別寄稿文を読んで、「本当の介護」とは何かが少しだけ分かったような気になった。「介護」とは、老いや障がいがあっても、自分らしく生きていくことを応援することであり、老いと障がいという、アイデンティティを失いそうな危機に直面している人を支えることなのである。だから、「介護」に必要なのは生活習慣を壊すような特別のやり方ではなくて、生活習慣を続けるための“特別な工夫”なのである。そして、本書の対談者の一人である村瀬氏が代表を務める「よりあい」は、そのような「介護」を日本に初めてつくったといってもいい在老所なのである。

 

    私は、「本当の介護」について、もっともっと知りたいという欲求が高まってきた。今度は三好氏の著書の中の一冊を読んで、具体的な「介護」の在り方についてより認識を深めたいと考えている。次回の記事に乞うご期待!